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「世界史的大変化のなかでどう生きるべきか」を議論しよう2016年7月26日

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【森田実 / 政治評論家・山東大学名誉教授】

「天地は一険一易なり」(『管子』)

◆新自由主義グローバリズムの衰退


 1970年代の英国におけるサッチャー革命と1980年代初めの米国におけるレーガン革命によって新自由主義グローバリズムの大波が起き、全世界を席捲しました。世界は、それ以前の修正資本主義、社会民主主義主導の時代から自由競争至上主義の時代に変ったのです。
 第2次大戦後の世界は修正資本主義、社会民主主義指導の時代でした。各国政府は戦争と過度の自由競争経済への反省に立って調和的抑制的な政治経済社会の運営に努めたのです。しかしサッチャー革命とレーガン革命が抑制の綱を切り捨てました。一連の規制から解放された「資本」は暴れ始めました。英国の保守党政権と米国の共和党政権が「資本の暴走」を推進しました。「資本の暴走」は修正資本主義・社会民主主義の制度と習慣を破壊しました。健全な社会常識と倫理をも崩壊させてしまいました。平和主義は踏みにじられ、格差社会が拡大しました。国民は極く少数の富裕層と大多数の貧困層に分裂してしまいました。
 それだけではありません。「自分さえよければ思想」が政治指導者、経済人の間に広がってきました。テロが拡大し渇望感が社会全体に広がり始めています。大国間の対立が深刻化し第三次世界戦争の危険が増しています。
 さらに、今日まで新自由主義グローバリズムを主導してきた米国と英国の指導層の中からグローバリズム否定の動きが出てきました。米国における「トランプ現象」と「サンダース現象」は、米国民の中に非グローバリズムの潮流が拡大していることを物語っています。英国民は国民投票で「EU離脱」を選択しました。EUは深刻な危機に直面しています。
 世界の主要国がグローバル化と非グローバル化の相対する二つの潮流の衝突のなかで混乱局面に入るなかで、日本の安倍政権だけは比較的安定しているようにみえます。しかし、日本でも非グローバル化の波が起こりつつあります。東北、北海道の農業者たちは、米国政府に従順すぎるほど従順なTPP受け入れに抵抗し始めています。
 いまの日本で最もたちおくれているのは政治と行政です。とくに指導層の鈍さが際立っています。この原因は、政治指導者が米国政府に従属してしまっているところにあります。
 いま大切なことは独立心をもつことです。独立自尊の精神をとりもどすことです。独立心をもって日本の進むべき道を考えることなしに未来を切り開くことは困難だと思います。

◆小を専らとして大を失うこと莫れ

 2016年は世界に大きな変化が起きています。私は第二次大戦後の第3期が始まったとみるべきだと考えています。
 日本のこの夏は選挙の季節でした。7月10日の参議院議員選挙と7月31日の東京都知事選挙です。世界の大変化のなかで日本はどう生きるべきかを全国民が考えるチャンスでしたが、しかし、議論は瑣末な問題に限られてしまいました。全ての政治家が対極的な議論を避けました。大問題を議論する能力を喪失しているのかもしれません。
 7月10日投票の参院選における主な論争点は、第一にアベノミクスの是非、第二に憲法改正を行うか否か、の二点でしたが、中身のある議論が行なわれることはありませんでした。与野党指導者は相手のあげ足取りに終始しました。「政治の貧困極まれり」の感あり、です。
 政治の貧困は東京都知事選においても繰り返されています。主な候補者間の政策討論はほとんど行われていません。各陣営はパフォーマンス優先のイメージ選挙に専念しています。
 私は64年前の1952年以来の東京都民ですが、東京は成長した反面で大きな危機に直面しています。近い将来必ず起こるであろう首都直下地震への備えは不十分です。「防災・減災」は東京都政の中心課題であるべきですが、候補者間ではほとんど議論されていません。社会資本整備も必要です。日本を代表する首都東京として十分とはいえません。とくに電線の地中化は急がなければなりません。今のままでは救急搬送に必要なドクターヘリが自由に離着陸できないのです。港湾、上下水道、公園の整備も大きな課題です。
 食料、エネルギー、医療、中小小規模企業、貧困問題など、議論すべき課題は山積しています。
 国政レベルでは日米関係について真剣な検討が必要です。少なくともトランプ大統領が実現したときの日本の対応について議論をしておく必要があります。
 いま考えるべきことは「広く会議を興し万機公論に決すべし」(五箇条の誓文)です。長期的視野に立って日本の生き方を議論すべきです。とくに重視すべきは農業です。農業こそ政治の中心課題です。農業のあり方を議論の中心におくべきです。

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