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【読書の楽しみ】第5回2016年8月18日

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【浅野純次 / 石橋湛山記念財団理事】

★山田優・石井勇人
『亡国の密約』 
(新潮社、1620円)

 二人の農業ジャーナリストが、コメ輸入をめぐる日米間の密約を追究し、その存在がTPP交渉での日本の相次ぐ譲歩を生むに至った一部始終を明らかにした力作です。
 話は今から30年前、ウルグアイで開かれた多国間通商交渉にさかのぼります。長い交渉の後、「例外なき関税化」をうたうウルグアイラウンド合意が実現し、同時にミニマムアクセス(MA、最低限の輸入枠)が設定されることになりました。
 日本はコメのMAで2000年度から毎年76万トン余を輸入することになりますが、以後、アメリカのシェアは一貫して47%で変わりません。その裏側を執拗に追跡する、謎解き的な面白さが本書の魅力の一つです。
 もう一つの焦点はMA米の日米密約がTPP交渉にどんな影を落としたか。口の堅い関係者から証言を引き出し、推理を働かせるところが著者の腕の振るいどころです。
 TPPではもっぱら外交、安全保障の視点から交渉が進められていて農水省と族の影の薄いこと。まるで日本版NSC(国家安全保障会議)が主役です。著者はTPP絶対反対ではありませんが、TPPの実態を見る目を養うに好適の本です。


★青木理
『日本会議の正体』
(平凡社新書、864円) 
 
 「日本版ティーパーティ」「強力な超国家主義団体」「日本の政治をつくり変えようとする極右ロビー団体」などと外国メディアがかねて警戒してきた日本会議。しかし日本のメディアは安倍政権への遠慮からか、ほとんど報じてきませんでした。
 本書は、その歴史的な経緯、運動の実績、保守人脈の内容、資金力や組織力、そして国会議員との密接な関係など、日本会議の実像に迫っています。
 歴史的には生長の家の創設者・谷口雅春の極右思想を引き継いでいます。ただし街頭右翼と違い、日本会議のすごいところは神社本庁や各地の神社と連携した草の根運動(署名や地方議会での請願など)を展開して、これまでに元号法、国旗国家法の成立や、建国記念日の制定など赫々(かくかく)たる戦果を挙げていることです。
 今後も憲法、天皇制、教育、靖国などで極右組織として存在感を強めていくでしょう。安倍政権の今は好機のはず。菅野完『日本会議の研究』(扶桑社新書、864円)も併せ読まれるといいでしょう。


★渡辺惣樹
『日本開国』
(草思社文庫、864円) 
 
 ペリーの黒船艦隊は圧倒的な力を誇示して幕府に開港を認めさせました。しかし著者は、いったん日米和親条約が成った後のアメリカが日本にまったく興味を失ったように見える(何よりも下田にハリスを置き去りにした)点が腑に落ちない、という疑念から本書を執筆したそうです。
 確かに軍艦どころか兵隊もおらず、通訳ヒュースケンを従えるだけで、外交官でもないハリスが日米通商条約締結へ孤軍奮闘する。どうも不自然です。
 本書は欧米、清、日本など世界を舞台に33の題材をモザイクのように組み合わせてその謎に迫ります。アメリカの狙いは日本ではなく、ましてや捕鯨船の寄港ではなかった。その目は日本のもっと先に向けられていたらしい。そうだったのかと、歴史の面白さを堪能できるはずです。

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