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人と牛の確保が第一2016年9月1日

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【高橋 勇・北海道JA浜中町参事】

◆どうなる酪農基盤

 酪農を基幹産業として事業展開している北海道の東端の当組合として毎年気になる数値がある。国が7月に発表する2月1日現在の乳牛頭数の統計である。本年度は前年より2万6000頭減少の134万5000頭と発表された。
 ピーク時の1985年には211万1000頭もいた資源がこの30年で3分の2以下に減少したことになる。当然生産される生乳生産量もピーク時の1996年の865万tの生産量が昨年度は740万tと大幅に減少している。乳牛頭数の減少は肉牛生産にも影響を及ぼし、素牛価格もその反動で空前の高値である。
 乳牛資源と担い手の確保が酪農・畜産業界にとっては喫緊の課題となって数年が経ってしまった。そのような中で国は畜産クラスター事業を目玉事業として積極的に推進し、JAを筆頭に納入業者まで、口を揃えて「良い制度を確立したので予算措置を大きくしてほしい」とおねだりし、新品の農機具導入や牛舎の新築工事が畜産の現場では積極的に行われている。
 個別には良いかもしれないが、業界全体で見れば機械や畜舎が新しくなっても縮小している酪農基盤回復になるのかどうか大きな疑問符がつく。冷静に判断すれば単なる負債の増加に過ぎないのではないだろうか。そもそも人と牛が減ってしまったのだから増やすことを考え、その対策を講じなければならないはずが、視点がずれている。
 当組合では30数年間新規就農事業に取り組んできたため、生産農家の20%以上が新規就農者で担っている。その結果、乳牛頭数は維持され生乳生産量も増加が続いている。何より近隣のJAと比較して組合員戸数と正組合員数の減少幅が少ないのが特徴である。
 畜産クラスター事業を活用し、メガファームを立ち上げることによって、地域全体の生産性向上を図ることは可能であるが、地域社会を支える人と地域経済の基になる牛の確保を後回しにすれば今後の地域の発展は望めないだろう。当組合は、今まで地域社会を守るのはJAの第一の使命と捉え、農場再生による地域の世代交代と生産基盤維持に取り組んできた。現在はその成果が表れている。
 それでは何故、人と牛が減ったままなのか。後継者不足はある意味では人災である。3Kと言われる畜産現場にわが子でさえも後継者になってほしくない風潮が長く続いていた。また、時の指導者たちも口を揃えて「きびしい酪農情勢の中で」を挨拶の枕詞に使い、自分たちの将来を悲観的に捉えていた。このような産業に志を持った若い世代が就労するはずはない。当組合は「ハーゲンダッツの原料に選定された素晴らしい生乳生産の一員になることと自然豊かな農村社会で暮らしてみませんか」をPRし、次世代の担い手育成を行ってきた。
 牛の減少は、交雑牛の生産が一つの要因ではあるが、府県が北海道から乳牛導入する構図も含めて、酪農家が自分の後継牛確保を他人に依存していることが最大の問題点である。ある意味「種まで食い潰す」ことになっていることに早く気づくべきである。
 国は雌雄判別精液を推進すれば、乳牛が増加すると単純に考え政策として反映しているが、一方で交雑牛の生産を増長することを理解できていない。畜産クラスター事業も含め、本当の意味の酪農、畜産支援策がなければ基盤維持は望めない。

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