収入保険 生産費補てんが前提2016年9月27日
◆TPPで価格下落 拠出金財源不足も
政府はTPP対策として収入保険制度を考えている。しかし、趨勢的な価格下落の中では基準価格及び補てん金額も下がるのみで生産コストを補償する仕組みではない。造成する拠出金も国:農業者=3:1で、国からの実質補てん金は67.5%(9割×3/4)にすぎず、基準価格と国内産米価格との差額の9割補てんするとしても、10%以上の価格下落では拠出金の財源は不足する。
TPP発効によって趨勢的に価格は下落傾向で推移していくから再生産可能な生産コストに見合う交付金の仕組みが必要だ。さらに、品目横断的経営安定対策のようにセット加入ではなく生産者の判断による品目ごとの任意加入の仕組みが望まれる。
政府は、TPP大筋合意の経営安定対策として「収入保険制度」を導入するので大丈夫だ、と言う。また「米国も収入補償が主流となっており、その米国型の収入補償を手本とするのだ」とも言う。果たして収入保険制度のみで充分か?収入保険とは農業経営全体を対象としたナラシ対策と考えられる。米国の所得政策を参考にしながら政府の言う「収入保険制度」が万全かどうか検証する。
◆米国の収入補償は不足払いとセット
まず米国とわが国が決定的に違うのは、米国が新しい不足払いまたは収入補償の選択による生産コスト水準を補償する仕組みがベースにあった上で、収入保険を提供しているのに対して、わが国では、米国のような不足払いのセーフティネットはなくして、収入保険のみでよいとしている点だ。
「米国の農業政策」に共通するのは(呼び方は違うにしても)目標価格(=生産コストに見合う水準)と市場価格との差額を補てんする不足払い制度という「岩盤」政策がしっかりとしている(民主党政権時代の10aあたり1万5,000円という固定部分と変動部分の支払い)。
2014年アメリカ農業法では、穀物についてはトウモロコシ、大豆、コメの目標価格が2009~2010年の生産コストを上回る水準に設定されている。その上で、農家は不足払いと収入補償のいずれかを選択できる。この場合、収入補償は基準収入を補償する仕組みだが、収入補償の基準収入を計算する販売価格について「販売価格が目標価格(=生産コスト)を下回る場合は販売価格の代わりに目標価格を用いる仕組み」である。つまり、収入補償そのものに生産コストを補てんする「岩盤」政策が入っている。
これは、コストに見合う収入補償なしで、価格下落に伴う収入保険のみが残される我が国とは決定的な違いで、収入保険で大丈夫といっている政府のミスリーディングであると考える。わが国も選択可能な経営安定制度の設計が必要である。
前述した収入保険制度は、価格下落による収入減少のみではなく、農業共済制度とセットで制度設計すべきだ。地域によっては農業共済制度の対象とはならない品目も多々あり、農業収入全体の減少をカバーするものではない。さらに、この制度についても生産者の判断による任意加入とすべきで決して強制すべきものでもない。
◆農地の8割集積 現実には不可能
政府・自民党はTPP対策として、経営安定対策と並行して10年後にコスト4割削減、認定農業者等の担い手に全農地の8割集積を提言し、政府は都府県に農地中間管理機構を創設した。これが実現すれば、国際競争力をもち農業は輸出産業になるというわけである。1980年代前半にNIRA(総合研究開発機構)が発表した叶芳和氏の「農業は先進国型産業である」とした内容を彷彿させる。さて、農地集積8割は果たして実現可能か?答えは困難である。というより不可能に近い。筆者が住んでいる福岡県糸島市を例にとってみる。糸島市は福岡市に隣接し農業が盛んな市である。
2015年時点で全農地面積5,932ha、利用権設定対象面積は5,440ha(農用地4,286ha、白地1,154ha)うち耕作放棄地920haを除くと集積対象面積は4,500haである。認定農業者が耕作している面積は自己所有地を含め約1,820haである。この中には平成8年からJA糸島が実施している利用権設定による集積面積は1,000ha超、農地法3条による賃借・使用貸借も含まれている。全農地に占める認定農業者の耕作面積は30.7%である。
これらから、農地中間管理機構を精一杯利用したとしても8割集積は実現不可能と言わざるを得ない。農地中間管理機構を通して集積するとしてもコストがどの程度削減されるのかということも明らかではない。
さらに、TPP大筋合意の内容から判断すると、米価下落基調のなかで土地利用型農業の規模を拡大して「効率的かつ安定的な」経営をめざすという余力は現場では感じられない。また、コスト削減4割という具体的な動きも起こっていない。もっと農業の生産現場に出てきてその目線で政策立案すべきだ。このまま突っ走れば、関税収入が減少し、財源が乏しくなるにつれて担い手経営安定法を改正して経営安定対策の対象者として面積要件を出さざるを得なくなるだろう。
重要な記事
最新の記事
-
商系に撤退の動き、集荷競争に変調 米産地JA担当者に聞く(中)【米価高騰 今こそ果たす農協の役割】2025年10月30日 -
再生産可能なコメ政策を 米産地JA担当者の声(下)【米価高騰 今こそ果たす農協の役割】2025年10月30日 -
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】新政権の農政~「朝令暮改」2025年10月30日 -
よく食べた栗の実【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第362回2025年10月30日 -
鳥インフルエンザウイルスの地理的拡散と進化 2024年シーズンの遺伝子を解析 農研機構2025年10月30日 -
第36回岐阜県農業フェスティバルに出店 ステージやイベントで県産農畜産物をPR JA全農岐阜2025年10月30日 -
全国の産地応援 伊藤園と共同開発「ニッポンエール 大分県産完熟かぼすSODA」発売 JA全農2025年10月30日 -
伊藤園と共同開発「ニッポンエール 長野県産りんご三兄弟」 発売 JA全農2025年10月30日 -
【肉とビールと箸休め ドイツ食農紀行】ドイツで食べ物は高いか?安いか?2025年10月30日 -
最新の無人・自動運転トラクターを実演 クボタアグリロボ実演会 in加美を開催 JAグループ宮城2025年10月30日 -
東北6県の魅力発信「全農東北プロジェクト」とコラボ企画実施 JAタウン2025年10月30日 -
「JAタウン公式アプリ」リリースで開発・導入を支援 メグリ2025年10月30日 -
GREEN×EXPO 2027公式ライセンス商品を相次ぎ発売 横浜と大阪で期間限定店開設 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月30日 -
適用拡大情報 殺菌剤「ダイパワー水和剤」 日本曹達2025年10月30日 -
ローズポークを食べてプレゼントを当てよう 11月にキャンペーンを実施 茨城県銘柄豚振興会2025年10月30日 -
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月30日 -
国産の針葉樹100%使用 高耐久の木製杭「エコクレオ防腐杭」がウッドデザイン賞 コメリ2025年10月30日 -
近いがうまい埼玉産「埼玉県地産地消月間」11月に県産農産物を集中PR2025年10月30日 -
「長崎みかん」初売りイベント 大田市場で開催 JA全農ながさき2025年10月30日 -
「済生会川口乳児院」建て替え支援として100万円を寄付 コープみらい2025年10月30日


































