TPPの見直し・変質と追加交渉に耐えられるのか2016年11月17日
TPPの条文は分かり難い文書が多いが、各国が妥協する中で曖昧な表現の中に、グロ-バル企業が利益と事業空間を広げる意図が読み取れる。TPP協定の章を読んで感じたのは、章の構成の中で、あることを規定しておきながら、後ろの方ではそれを否定する、あるいは限りなく無意味なものにしていく組み立てだ。「貿易・投資を自由化し、経済成長及び社会的利益をもたらし、~中略~経済統合を促進する包括的な地域的協定を作成する」(前文の最初の規定)する前文に代表される包括的な収斂の方向を念頭において読み込むとよく分かる。そして更に30章のうちの大半の章に、18の小委員会と3つの作業部会が設けられている。この小委員会は、TPPを秘密裏に変質させていく重要な機関となる筈だ。
◆どんな仕掛けがあるのか?
今国会でも繰り返され、政府のQ&A(6月21日公表)でも同様だが、例えば食の安全・安心に関連して、政府は、「日本の制度や基準を変えるようなことは協定では求められていない、問題ない」などと答弁している。その限りでは正しい答弁かもしれない。しかし、政府は条文の全体的な組み立てには敢えて触れていない。食の安全・安心に関わる章は2章「内国民待遇及び市場アクセス」、5章「税関手続き及び貿易円滑化」、7章「衛生植物検疫措置」。8章「貿易の技術的障害」に渡っている。
例えば遺伝子組み換え食品(GMO)の輸入増大懸念に対しても"問題ない"の一点張りだ。しかしGMOついては、新たな作物の承認という観点で見ると、2章・27条「現代のバイオテクノロジ-生産品の貿易」5項~10項では一貫して新たな遺伝子組み換え食品の承認や輸入拡大に繋がる内容だし、未承認GMOの輸入の際の微量混入については、輸入国の立場での問題解決や発生防止には触れず、また輸出国の責任を問うことなく、ひたすら新たな承認の可能性を広げる条文が連なっている。
そして7項に書かれた輸入国がすべき事項は、輸入国が実施した評価について根拠を求める"科学論争"への途を輸出国に与えるものでしかない。
※第2章の条文へはこちら⇒
◆小委員会の協議内容は公表されるのか? 決定事項の国会承認は必要ないのか?
最も上位の委員会は第27章のTPP委員会(TPP Commission)だ。
他の小委員会(Committee)が機能・役割中心で権限が不明瞭なのに対し、TPP委員会は2条「委員会の任務」2項で「委員会は次のことを行う」(may)として、いくつかの"決定権"と言えるものが規定されている(英語はmay, shallなど)。
例えば、2条・1項・(h)「(国内手続きの)通報を行ったTPP署名国についてその手続きが効力を生ずるかどうかを決定する」とし、また2条・2項・(c)(ⅰ)「繊維・繊維製品の原産地規則の修正を採択できる」(各国の国内手続き完了を条件として)と規定している。更に2条・3項では「~適当な場合には交渉を通じ、この協定の更新及び強化を目的としてこの協定の見直しを行う」ともされている。※第27章の条文はこちら⇒
筆者が分析を担当した17章「国有企業」12条「国有企業に関する小委員会」の規定では、「この章の規定の運用及び実施について見直し及び検討を行う」、「TPP参加国の2ヶ国以上が参加している地域機構・多国間機関で国有企業章の内容を実現するよう努力する」ことを規定している。まるで"生きた協定"として権限や責任も明記しないままTPPを変質させ、更にTPPを他の地域・国際機関にも拡大しようとする意思が示されている。
果たして委員会・小委員会などで協議あるいは決定された修正内容は公表されるのか、更には国会承認が求められるのか、非常に気になるところだ。※17章の条文はこちら⇒
TPP委員会、小委員会には見直し、追加交渉が満載だ。そしてそこに込められた意図。文脈を読み取ることが大事だ。政府は国会で、「交渉はするにしても要求を認めなければよい」と繰り返している。これまでの後退一方の譲歩や、交渉力を考えると、政府の答弁を素直に信じる訳にはいかない。
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