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【読書の楽しみ】第8回2016年11月18日

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【浅野純次 / 石橋湛山記念財団理事】

★楊海英
『逆転の大中国史』 
(文藝春秋、1674円)

 中学だったか高校だったか、夏、殷、周、秦、漢、隋、唐などと暗記し、「中国4000年の歴史」に圧倒されたものでした。でも本書は、それは虚妄であると断言します。
 北方(北狄)や西方(西戎)から攻め込んだ異民族による政権が一時的に成立はしたけれど基本的には漢民族の王朝が中国を支配し続けたのだ、とする「正統派の歴史」は事実ではないと。
 著者は内モンゴル出身で日本に帰化した文化人類学者。宗教、言語、文化、考古などの知識を駆使し、モンゴルやチベット系などの 遊牧民族が王朝を作り続けたのが今の中国に当たる地域の本当の歴史であるのだということを、体験も交えて論証します。
 中国批判本と受け取る人もいるかもしれませんが、それほど単純ではありません。中国の歴史についての異説を提起しているやや学術的な本といったほうが正しいでしょう(といっても平易で興味深い本ですが)。
 視点を変えるだけで歴史がこれほど違ってくるというのはとても重要です。北京を中心に見るのと、万里の長城の北側に視点を移すのとの違いがかくも大きいとは。読書の楽しみを味わいました。
 
★島田雅彦
『虚人の星』
(講談社、1728円)

 最初にお断りしておきますが、出たのは1年前です。ですが先日「毎日出版文化賞受賞」の記事が載ったので買い求めました。奇想天外な政治小説です。
 話は7つの人格をもち日中の二重スパイとなった星新一、有能とはいえない3代目首相の松平定男を主人公として、米中の狭間に揺れる日本政治の内側が展開されていきます。
 二人とも性格乖離という交代人格に悩まされる、その内的やりとりがよく出来ていて、最後にはどんでん返しも楽しめます。
 主題は官邸など政権の内幕です。首相は好戦的なドラえもんと受動的で穏健派ののび太という複数人格の葛藤に悩まされますが、登場する政治家はどれもモデルがありそうで想像するのも楽しい、ノンフィクション的パロディです。
 現政権を痛烈に批判した小説としても見事です。心の病という側面から社会状況に切り込んだところを含め、読んで絶対に損はないはずです。
 
★野口雄史
『「兆し」をとらえる』
(角川新書、864円)

 わかりにくい書名ですが、テレビ東京の人気番組「ガイアの夜明け」のプロデューサーである著者が、他局が気づかないテーマを見つけ出し、どう番組を制作し、タイムリーに放映しているかを語ったいわば内幕本です。
 ドキュメンタリーなどのテレビ番組がどのように制作されるかが丁寧に説明されます。もちろん数字(視聴率)を取らなければなりませんが、思わざる制約もあり、一歩先、二歩先を行くことの難しさがよくわかります。
 成功例や失敗例など具体的な話が多いので硬派の番組が好きな人には何よりの「解説」本でしょう。成功例を取り上げる場合に用心すること、取材相手がいやがる失敗例をOKさせるテクニック、ニュース制作の現場についてなど、番組を見るときに役立つ内容が盛り込まれています。

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