トランプ政権のTPP復活を許さない 2016年11月19日
11月8日に実施された米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が大勝して10日が経過した。史上最悪の嫌われ者同士の対決と言われたが、勝利したのはメディアの総攻撃を受けたトランプ氏だった。トランプ氏は人種差別、女性蔑視の言動で批判に晒されたが、マスメディアのヒステリックとも言えるトランプ攻撃の背景には別の事情があったと見られる。
☆大統領選トランプ勝利の背景
それは、クリントン氏が米国を支配する巨大資本の支配下にあるのに対して、トランプ氏はそうではないと見られることだ。堤未果氏の近著『政府はもう嘘をつけない』は、「お金の流れで世界を見抜け」と指摘するが、クリントン氏がいわゆる多国籍企業からの巨額資金を選挙費用に充てたのに対して、トランプ氏は自前資金で選挙を戦った。
2009年に大統領に就任したオバマ氏は清新な大統領になることを期待されたが、現実には巨大資本の支配下の大統領に堕してしまった。2008年大統領選でオバマ氏が大企業やウォール・ストリートから集めた7億5000万ドル(約750億円)という史上最高額の政治献金は、2期目の選挙では10億ドル(約1000億円)に跳ね上がり、その大口スポンサーは全米貿易協議会(NFTC)であった。NFTCこそ1%勢力、巨大資本=ハゲタカ勢力であり、これが米国政治を支配している。
トランプ氏の勝利は、強欲な巨大資本=多国籍企業による米国支配に対する米国の民衆による反発、抵抗がもたらしたものである。6月23日の英国の国民投票ではEU離脱の意思が示された。このときも、メディアはヒステリックな大批判を展開した。強欲巨大資本による世界市場制覇という「グローバリズム」に対する反抗が世界の各地で大きなうねりとなり始めていることに対する大資本の側のいらだち、狼狽がメディアを通じて流布されているものと言える。
☆ハゲタカのためのTPP
強欲巨大資本が獲得しようとしている巨大な果実がTPPである。TPPは元々ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4ヵ国で創設されたものだが、2009年に米国が参画して基本性格が一変した。TPPの最大の目的は日本市場の収奪である。米国巨大資本は1980年代以降、日本市場を収奪するために、さまざまな取り組みを展開してきた。日米円ドル委員会が創設され、日米構造協議(SII)、ウルグアイラウンド、年次改革要望書をはじめとする多様な戦術が駆使されてきた。その結果として、郵政民営化や日本金融市場の制圧などが急展開された。
巨大資本による日本攻略、日本市場収奪のための最終兵器がTPPである。強欲巨大資本=多国籍企業はハゲタカとも表現されるが、TPPの本質は「ハゲタカのハゲタカによるハゲタカのための条約」である。ハゲタカはTPPをオバマ政権に託すとともに、日本の為政者にその推進を命令した。
ところが、2016年の米大統領選では巨大資本の支配下にはないトランプ氏やサンダース氏が躍進し、TPP実現のシナリオに異変が生じたのである。クリントン候補はサンダース支持票を獲得するため、表向きはTPP反対の意向を表明したが、大統領に選出された場合、条件付きTPP容認に転じると見られてきた。これに対してトランプ氏のTPP反対は明確であり、巨大資本はいかなる手段を用いてでもトランプ氏当選を阻止しようとした見られる。
並行して安倍政権に対して日本のTPP拙速批准を命令し、可能ならオバマ政権末期にTPPを米国で批准させて、TPP発効を確保しようとしたと推察される。
これが、安倍政権のTPP拙速批准に向けての異様な行動の背景である。日本の為政者は米国の命令に隷従しさえすれば、我が身の安泰が保障されると考えてきた。米国巨大資本の僕であるとしか言いようのない為政者の行動様式は、日本国民にとってあまりにも悲痛な姿である。
☆主権者冒涜の公約破棄
トランプ氏の勝利で状況が急変したにもかかわらず、安倍政権は11月10日の衆院本会議でTPP批准案を強行可決した。強行採決等の暴言を連発し、JA関係者への利益誘導を示唆する発言まで示した山本有二農水相の責任を不問にした上での暴挙だった。
トランプ氏は大統領選投票日直前に明示した「有権者との契約」において、大統領就任当日にTPPからの離脱宣言を明記しており、TPP離脱公約の破棄は常識的には考えられない。米国大統領選が日本に与える影響のなかで、最大、最重要の事案がTPPであるから、トランプ氏の勝利は、この意味で日本の主権者にとって最大の朗報になった。
しかしながら、数々の暴言、放言を提示してきたトランプ氏であるだけに、大統領選勝利の後にどのような軌道修正を示すのかについて、十分な監視が必要である。
大統領選直前にクリントン氏とだけ会談し、クリントン支持の旗幟を鮮明にしてしまった安倍首相は、トランプ氏勝利で顔色を失った。その修復のために、さっそくトランプタワー詣でを実行。11月17日にトランプ氏と面会した。会談は少数で行われ、日本側は安倍首相と通訳だけの出席になった。
安倍首相は会談内容を明らかにしていないが、TPP存続を強く働きかけたことは間違いないだろう。真偽は定かでないが、一説によると安倍首相は2012年12月の自民党総選挙ポスターを土産に持参したと言う。「ウソつかない!TPP断固反対!」と大書きしたポスターである。
安倍首相は主権者に対してこのような公約を明示したが、3ヵ月も経たずにTPP交渉への参加を決定した。主権者との約束、契約など木端微塵に破棄しても何も問題はないことを積極的にアピールするために、このポスターを持参したのではないかと憶測されている。
☆主権者が連帯してTPP断固阻止
トランプ氏の契約書では、米国の労働者を守るための7つの行動の2番目にTPPからの離脱が記されている。トランプ氏がTPP離脱を表明した理由は米国労働者の雇用を守ることにあり、この点を踏まえて安倍首相は、日本の製造業が対米進出して米国の雇用拡大に実績を挙げたことを強調したと考えられる。これが事実なら、安倍首相の行動は日本の国民の利益を優先するものではなく、ハゲタカの利益だけを優先するものになっていると言わざるを得ない。
日本がTPPに参加すれば重大な変化が生じることが確実である。日本農業が「農家の農業」から「強欲巨大資本のための農業」に変質させられる。食糧自給は崩壊し、食の安全、安心、地産地消が消滅するだろう。医療の世界に貧富の格差が持ち込まれ、一般庶民は必要十分な医療を受けられなくなるだろう。労働者は一億非正規化に向かい、1%対99%の格差は一段と拡大する。農協、生協、労組、共済事業などは解体させられることが予想されている。
TPPの恐ろしさは、条約の発効時点で全貌が明らかでない点にある。膨大な合意文書の日本語正文は存在しない。しかも、各条文の表現が抽象的、曖昧で、解釈の余地が極めて大きい。さらに交渉過程が秘密保持義務で公表されていない。言わばレーダーに映らないステルス爆撃機のような存在なのだ。
そして、致命的と言える問題は、このTPPステルス爆撃機にISD条項という核弾頭が搭載されていることだ。強欲資本がISD条項を用いて提訴し、国際仲裁機関が決定すると、日本政府も日本国民も服従するしかなくなる。国家主権、国民主権が喪われる。日本の諸制度、諸規制は長期にわたって強制的に改変されることになる。その終着点は日本の「完全なる米国の経済植民地化」である。
稲田防衛相はかつて「TPPは日本文明の墓場行きのバスだ」と述べた。おおむね正しいがやや甘い。「TPPは灼熱地獄、無間地獄行きのバス」である。こんなバスに国民を無理やり押し込んで、行き先を告げずにバスを発車させることが許されてよいわけがない。日本の主権者はTPPを完全に廃棄し切るまで、連帯して行動し続けなければならない。
(写真)MICHAEL VADON提供
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