(009)フード・セキュリティと「食の安心」2016年12月9日
最近よく耳にする言葉に「食の安全・安心」という表現がある。この安全と安心は似ているようで実はかなり異なる。
「食の安全」は英語のfood safety(フード・セイフティ)の訳であり、内容的には厳密に科学的なもの、さらに公衆衛生などとの関係が深い。これに対し、「食の安心」は言葉からだけ判断すれば、心理的・情緒的な側面が強い。例えば、「腐った〇〇〇」という名称の食品があるとしよう。「いくら安全と言われてもこれは食べたくない」というのが人間の正直な気持ちだとすれば、それもまた1つの現実として認める必要がある。
※ ※ ※
さて、英語ではfood safetyと比較する概念として、food security(フード・セキュリティ)という表現がある。こちらは日本では一般的に食料安全保障と訳されることが多い。食に関する議論をする際には、safetyとsecurityを区別して話さないと議論が混乱する。
元々、フード・セイフティの概念は、1974年の世界食料会議において、この当時の世界穀物市場の混乱という状況を元に提起され、「国際市場および国家レベルでの基本的な食料の価格と入手可能性の安定」というところからスタートしている。
1980年代になり、対象は国際市場から、地域レベルや世帯、そして個人レベルでの食料品のアクセスという形に拡大・深化してきた。
1996年の世界食料サミットでは、フード・セキュリティを構成する4つの要素として、(食料の)入手可能性(availability)、(食料への)アクセス(access)、(食料や食資源の)活用(utilization)、そして安定性(stability)が示されている。この部分は重要であるので、FAOがまとめた文書のアドレスを注で掲示しておく(注1)。
簡単に言えば、これら4つの要素が確保されない場合にはフード・セキュリティ上、問題があると理解しておいた方がわかりやすい。
※ ※ ※
さて、従来、国際社会において、フード・セキュリティの問題と言えば、途上国における食料不安の問題が中心と考えられていた。
ところが、先進国の国民の中にもこれら4つの要素の中で問題を抱えた多くの人々が存在することが明確になり、これまでの定義に疑念が生じたのである。定義が変われば対象が変わり、その結果、「先進国におけるフード・セキュリティ」という新たな課題が浮上してきたのである。例えば、わが国における「買い物弱者」の問題などは、この概念の中では明らかにフード・セキュリティの問題として扱うことが出来る。
※ ※ ※
さらに最近では、フード・セキュリティの倫理的(ethical)あるいは人権(human rights)あるいは動物愛護的な側面も注目されてきている。対象となる食品を、物理的、科学的、生物学的な側面からとらえて安全性を確認するだけでは十分ではないということだ。
どのような環境(生育・生産・製造・加工・流通・保管)において、どのような状態の人々(成人、子供、過重労働...)が、どのような方法で当該食品を作り、最終的に提供あるいは廃棄されたか、さらに、その一連の活動が周辺のコミュニティや自然環境にどのような影響を与えているか...、こうしたことまでを視野に入れて農業や食品産業に関わることが求められ始めたのである。
生産現場におけるGAP(good agricultural practice)や、製造・加工現場におけるHACCPの重要性が強く唱えられる背景には、科学的な安全性を追求するという側面とともに、フード・セキュリティの概念の変化が示しているように、誰もが納得できる形での農産物の生産や食品の製造・加工・流通を確保するという側面があり、それこそが最終的な「食の安心」につながるということを踏まえておく必要がある。
このように考えると、各々の立場で何をすべきか自ら明らかになるのではないだろうか。
注1) FAO, "Food Security", Policy Brief, Issue 2, June2006.
http://www.fao.org/forestry/13128-0e6f36f27e0091055bec28ebe830f46b3.pdf#search='Policy+brief%2C+FAO%2C+food+security'
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(118) -改正食料・農業・農村基本法(4)-2024年11月16日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (35) 【防除学習帖】第274回2024年11月16日
-
農薬の正しい使い方(8)【今さら聞けない営農情報】第274回2024年11月16日
-
【特殊報】オリーブにオリーブ立枯病 県内で初めて確認 滋賀県2024年11月15日
-
農業者数・農地面積・生産資材で目標設定を 主食用生産の持続へ政策見直しを JAグループ政策要請①2024年11月15日
-
(410)米国:食の外部化率【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月15日
-
値上げ、ライス減量の一方、お代わり無料続ける店も 米価値上げへ対応さまざま 外食産業2024年11月15日
-
「お米に代わるものはない」 去年より高い新米 スーパーの売り場では2024年11月15日
-
鳥インフル 米オレゴン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月15日
-
「鳥インフル 農水省、ハンガリー2県からの家きん・家きん肉等の輸入を14日付で一時停止」2024年11月15日
-
「鳥インフル 農水省、ハンガリー2県からの家きん・家きん肉等の輸入を13日付で一時停止」2024年11月15日
-
鳥インフル 米ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月15日
-
南魚沼産コシヒカリと紀州みなべ産南高梅「つぶ傑」限定販売 JAみなみ魚沼×トノハタ2024年11月15日
-
東北6県の魅力発信「食べて知って東北応援企画」実施 JAタウン2024年11月15日
-
筋肉の形のパンを無料で「マッスル・ベーカリー」表参道に限定オープン JA全農2024年11月15日
-
「国産りんごフェア」全農直営飲食店舗で21日から開催 JAタウン2024年11月15日
-
農薬出荷数量は3.0%減、農薬出荷金額は0.1%減 2024年農薬年度9月末出荷実績 クロップライフジャパン2024年11月15日
-
かんたん手間いらず!新製品「お米宅配袋」 日本マタイ2024年11月15日
-
北海道・あべ養鶏場「旬のりんごとたまごのぷりん」新発売2024年11月15日
-
日本各地のキウイフルーツが集まる「キウイ博」香川県善通寺市で開催2024年11月15日