【読書の楽しみ】第9回2016年12月15日
★島崎治道
『「地産地消」の生き方』
(ベスト新書、880円)
39%というあまりに低い食料自給率は日本の生存率を危うくするという本書の主張はそのとおりでしょう。問題はその先です。
「地産地消」というのは実は1962年に著者が創った言葉だとか。それを徹底していく先には、輸入品の排除はもとより、県や市町村単位での自給率をも高めるべきだという強烈な主張がありました。著者は学校給食でも地元産の米麦や野菜、果物に徹すべしと提起し行動しています。
と同時に産地直売所をつくってレストランや加工所を併設し、付加価値を高め野菜などの売れ残りをなくすことも提案しています。
著者の理論と主張は単なる机上の話で終わらずに、各地で実現していてそれを記述しているところが類書との違いです。
JAについての言及はないので、どういう位置づけなのか、理論と実践面でどんな関係なのかわかりません。JAの考え方と一部、食い違うところがもしあるとしても、本書の提言を手掛かりに互いに切磋琢磨していってほしいものです。
繰り返し主張される「食育」も重要な論点です。ただし生産側からすると、地産地消で終わらず、人口減少を考えれば市場としての世界を意識していくことも重要なのではないかと感じました。
★橋本明
『知られざる天皇明仁』
(講談社、1998円)
天皇の退位問題が大ニュースになっています。皇室典範を変更するとなると憲法改正が必要かもしれず、今回は特例法ですますことになりそうな気配ですが、天皇はご不満なのではないでしょうか。
本書は学習院の小中高で学友だった、というより最も身近な友だった著者が、皇太子の言動をここまで書いていいのかと思うほど率直に描いた異色の皇室本です。皇太子は激しやすく気分屋だったようで、一時、絶交状態に陥った著者(その後、修復)は皇太子への遠慮のない評価を書き記しています。
今の落ち着いた天皇像へと、まるで別人のようになったのは結婚のおかげが多分にあるそうで、美智子妃の功績は大変なものだったことがわかります。
お二人が広島など慰霊の旅にこだわられた理由や犠牲者への思いなどの個所は感動的でさえあります。本書を読まずして退位など天皇制を論ずることは軽率のそしりを免れないでしょう。読み物としても史料としても一級品であり、広く読まれてほしい本です。
★長尾剛
『近代日本を創った7人の女性』
(PHP文庫、691円)
明治から昭和初めにかけて活躍した女性たちを簡潔に紹介した本ですが、みな個性的で、男尊女卑の時代によくぞ自立したものよ、と感心してしまいます。
登場する7人のうち津田梅子(津田塾大)、下田歌子(実践女子学園)、羽仁もと子(自由学園)、吉田彌生(東京女子医大)と4人までが女性が学ぶ場を創設しているのは、彼女たちの心の中で学ぶことの大事さがいかに重く意識されていたかを示しています。
もっとも彼女たちは貧困だったり、教育をろくに受けられなかったり、男運が悪かったり(これが多い)、みな波乱万丈の生涯を体験しています。その点で現代日本の女性ははるかに恵まれています。本書の女性たちに負けず、JAでも女性の存在感がさらに高まっていくことをつい期待してしまいました。
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