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トヨタ自動車と全農の交流効果 "強い現場"を構築2016年12月18日

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【加藤一郎(前全農代表理事専務)】

 「野菜づくりとクルマづくり出逢いの風景」(平成21年発行・筆者岩田重敏氏・編者全農)が入手困難な名著と言われ注目されている。本書は、サラーリーマンから農業に転進した生産者木村誠氏が、全農とともにトヨタ自動車の当時の張会長(現名誉会長、全日本剣道連盟会長)林技監(技監は技術者の最高峰に位置付けられている役職、現顧問)から3年間にわたり茨城県の栽培現場でトヨタの生産方式から学んだことの記録をまとめたものである。その生産法人TKFはベビーリーフ等の売り上げを約1億円規模から10年間で11億円(平成28年度見込)に拡大し(株)HATAKEカンパニーと社名を変更し新社屋のお披露目会を開催し、当時の関係者が再会した。 

◆トヨタのモノ作りの哲学を学び、売上10倍に拡大

(株)HATAKEカンパニー提供 平成17年に経団連の立花専務(現人事院)がトヨタのモノ作りの考え方を農業界に移転できないかと張会長に打診したことに始まり、その考え方が全農に伝わった。平成18年4月にJAビルで意見交換会を開催する運びとなった。この会議は初回から盛り上がりをみせ、まさに鳥の雛が生まれる時の雛と親鳥が卵の内外から同時につつく埣啄同時の様相となった。当初仲介の労をとった立花専務の先見性には敬意を表したい。当時、全農の専務だった私は「成熟社会、日本は今後どうあるべきか。お金を出しても買えないもの。それは『環境』『健康』『文化』である。この三要素を骨格とした『新しい国づくり』その中心は農業であり、21世紀の成長産業『農業』をトヨタ自動車のような最先端製造業のノウ・ハウを学び、農業の現場に導入したい」と挨拶した。
 この会議の後、全農小池営農対策部長(現片倉コープアグリ会長)がトヨタの担当部長と協議して、議論より「現場」から入ろうとの結論に達し、全農茨城県本部関営農支援部長からTKFの木村社長を紹介され、3年間にわたる農業の生産現場でのトヨタ生産方式の導入の試行が始まった。
 トヨタの生産方式とは何かをこの紙面に書くことは困難ではあるが、林顧問がHATAKEカンパニーの新社屋の披露式での挨拶に「うず高く積まれた段ボールを見て、箱を積むことで野菜の品質が良くなるのか」と語った。トヨタでは部品を生鮮食品と同様に滞留させないように扱っている姿勢を反映した言葉でもあった。林顧問は我々に教えてきた基本である整理・整頓・掃除・清潔の「4S」は単なる実施事項ではなく、「ムリ、ムラ、ムダ」を排除して原価低減につなげる目的意識と「なぜか」を繰り返し問う姿勢である。木村社長はトヨタの「モノ作り」の哲学を忠実に守り、挑戦を続けた結果、ベビーリーフ等の生産ほ場を筑波エリアだけでなく大分、岩手などに拡大し(約90ha)、売り上げを10年間に10倍に拡大した。これは、生産現場にトヨタ、経団連、全農の関係者が集まり、意見交換と解決策を模索し、木村社長は見事に野菜作りにその成果を実証した結果でもある。

◆お粗末な規制改革推進会議の提言

 規制改革推進会議農業ワ-キング・グループは「攻めの農業」を目指して「農協改革に関する意見」を出した。そのWGのメンバーは金丸座長をはじめ農業の素人を公言される委員が、農業改革、全農改革の提言を出した。我が国は農業も含めた「モノ作り技術立国」である。我が国の経済をリードしてきた自動車産業を含めた伝統的な製造業界からもWGのメンバーに起用されておらず、JAグループの当事者もいないなかで、農業改革が、民間企業である全農の事業改革にすり替わって、国の政策になるような事例は世界で稀有な事例である。
 彼らは全農の肥料・農薬部門を縮小し、情報提供の機能だけにしなさいという。役立つ情報は事業活動抜きには入手できない。そんな基本的なことが分からぬ人達の意見に従うことができるのだろうか。私は怒りを通り越して失笑した。
 全農肥料事業の歴史の一例として、1983年に全農は米国フロリダ州の肥料原料のリン鉱石鉱区を買収し、我が国で初めてリン鉱石鉱山を米国企業と合弁事業を開始した。私はこの事業にF/S段階から参画した。86年にトヨタがケンタッキー州に自動車工場(工場長は現張名誉会長)を建設したより前の出来事である。
 肥料は三大原料である窒素・リン酸・カリのうち窒素を除き、100%海外資源に頼らざるを得ない原料であり、その資源輸出国はカルテル化しているのである。全農の肥料事業は単に製品を肥料会社から購入しJAに販売するだけではない。肥料生産は原料の安定確保から始まる事業である。
 フロリダ州での採掘完了後は、三菱化学、朝日工業、三菱商事と合弁でリン鉱石とカリの鉱区をもつヨルダン王国で、湾岸戦争後、この地域で初めての国際投資で肥料工場を建設し、安価な三銘柄の肥料を輸入し販売も行った。
 国際的にカルテル化し、代替原料のない肥料原料はいつでも好きな時に好きな量を確保できない商品である。例えば米国産リン鉱石は資源確保の視点で現在でも輸出禁止措置がとられ、リン安に加工した原料としてしか輸入できない。全農は農業生産の基幹資材である肥料を安定的に農家に供給していく責任を担い果たしてきている。
 また、我が国の肥料は銘柄が多すぎると批判されているが、農水省、県の試験場はJAにほ場の土壌分析を行い、その土地と作目に合った肥料を使用すべきと指導してきたのではないか。規制改革推進会議のメンバーは、もっと内容を調査をしたうえで発言すべきである。すべて劇場型になってきていることは、嘆かわしい事態である。

◆"強い現場"で体育会系戦略論を構築すべき

 「ものづくり経営学」の東京大学大学院経済学研究科藤本隆宏教授は本紙(平成22年)での私との対談のなかで「製造業の現場は体育会系戦略論である。試合(国内市場・世界市場)に出ては負けても愚直に鍛錬を繰り返す。これが日本の農業を含めた製造業の持ち味である。留意すべきことは"強い現場"と"弱い本社"とならないことだ」と述べ、全農に期待することとして「全農の設計思想として国民の食生活まで考えて攻撃的に農業の"良い設計""良い流れ"を構築し、世界に提案していくことだ」と述べた。
 また、福田康夫元官房長官は「改革との言葉は拠ってきた歴史を踏まえないと誤りやすい。行き過ぎた経済合理主義に基づく改革論は見直すべき」と語ったことが思い出される。
 全農の役職員、JAの役職員の方々には、自らの事業に誇りをもち毅然とした態度で、この逆境を乗り越えて、"強い現場"の構築を期待したい。
(写真)(株)HATAKEカンパニー提供

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