(012)再編と買収の果てに(2)2016年12月30日
前回はカナダの穀物業界再編の動きについて触れたので、今回はオーストラリアの穀物業界の動きについて簡単に述べる。
米国農務省の最新見通しによると、オーストラリアの2016/17年度の小麦生産量は3300万トン、うち2300万トンが輸出見込みである。また、大麦生産量は1060万トン、輸出は700万トンが見込まれている。なお、参考までに述べると、オーストラリアのトウモロコシ生産量は年間50万トン程度である。
わが国の2015年の輸入実績を見ると、小麦輸入数量553万トンのうち、オーストラリアは90万トンで米国、カナダに次ぐ第3位である。また、大麦の総輸入量は111万トンだが、オーストラリアは22万トンで第1位である。
※ ※ ※
オーストラリアの穀物取引の歴史を振り返ると、小麦、大麦ともにボード(Board)の役割が極めて大きい時代が長い。日本語ではオーストラリア小麦庁と訳されていたAustralian Wheat Board:AWBと、大麦を扱うAustralian Barley Board:ABB、この2つは過去60年以上にわたり、オーストラリアの穀物を語る上で不可欠な存在であり、これらの品目の対外輸出では独占窓口として機能してきた。これはシングル・デスク(制)と呼ばれていた。
一方、穀物に限らず、世界史の大きな流れで見れば、1990年代は第2次大戦後長期にわたり継続したいくつもの社会システムが大変化した時期である。象徴的なものは1989年のベルリンの壁崩壊と冷戦終結だが、ビジネスの観点から見ると、この前後から世界各国で急速に国営企業・組織の民営化・会社化が進展している。
カナダ同様、オーストラリアでも様々な議論を経た上で、AWB、ABBの両方が1999年に会社化している。以下は、AWBとABBの動きを簡単に記したものである。
(AWB)
1939年 設立
1998年 100%出資の子会社を設立して全事業を移管。
1999年 小麦生産者を株主とした非公開企業へ。
2001年 公開会社となり名称がAWB Limitedへ。
2010年 カナダのAgrium社に買収され、Agrium Asia Pacific Limitedに名称変更。
2011年 穀物メジャーのカーギル社が穀物取引部門を買収。
(ABB)
1939年 設立
1999年 事業分野の拡大を考慮し、名称をABB Grainに変更。
2004年 南オーストラリアの穀物集荷企業AusBulk社を買収。
2009年 バイテラ社(Viterra)により買収され欧州資源メジャーの一部門へ。
※ ※ ※
さて、1920~30年代にかけての世界恐慌、そしてその後の第二次世界大戦へという歴史の流れの中で世界各国は、自国だけでなく国際社会の政治や経済の安定の重要性を深く認識するようになった。その重要課題の1つとして、食料をいかに安定的に確保、つまり管理するかということが考えられた。その結果、オーストラリアやカナダではAWBやABBのような国営輸出組織が設立されてきた。
国家が一元的に食料を管理する仕組みを導入したのはカナダやオーストラリアだけではない。わが国にも1942年に制定され、1995年に廃止されるまで続いた食糧管理法という法律が存在していたことを覚えている人は多いであろう。
制度や仕組みというものは、どのように理想的なものを構築しても、作り上げた瞬間から陳腐化が始まる。その意味ではマネジメントとはいかに崩壊を食い止めるかという不断の努力であり、アンチ・エイジングのようなものと考えることもできる。
一方、中国の故事には「上に政策あれば、下に対策あり(上有政策下有対策)」というものがある。完璧を目指した制度であればあるほど、その制度で規制される側は知恵を絞り何らかの対策を講じる。こうした対策あるいは抜け道のようなものは、多くの場合、制度そのものの微修正により埋められていくが、これがある臨界点を超えると抜本的な改革をしないと大元の制度そのものが耐えきれなくなるのであろう。
その兆候が顕著になると数多くの議論が沸き起こり、業界全体を巻き込んだ大再編が起こる。その結果、淘汰される人や組織が出るとともに、装いだけ新たで実質はそれまでと余り変わらない人や組織が登場することもあれば、それまでの制度で参入を阻まれていた人や組織がいかにもという形で登場してくることもある。いわば、陣取りゲームのようなものだ。
オーストラリアやカナダの穀物業界の動きを見て諸行無常と達観することが出来るだろうか。まだまだ生臭い世界に生きている筆者にはしばらくは無理かもしれない。
※ ※ ※
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