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(013)グローバル化を生き抜く協同組合モデルを2017年1月6日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 2017年、本年もよろしくお願い致します。
 さて、新春からどうも気になることがあるため、本年最初のコラムで記しておきたい。通常、ビジネスで物事を大きく見極めるには、顧客の状況、自分の状況、そして競争相手の状況を比較検討した上で意思決定を行う。これは一般的には3C分析(カスタマー、カンパニー、コンペティターの英語の頭文字Cを示す)という「戦略の基礎的枠組み」であり、深く浸透している。こうした分析は、本来、農協改革でも活用可能である。
 ところが、どうも近年の議論には違和感を覚える。それには2つの理由がある。

  ※  ※  ※ 

 第1は、そもそも3C分析に相当する検討を充分に踏まえた上での議論なのかどうか。例えば、全農の「会社化」という論点では、最大の利害関係者であり農協の出資者でもある多くの農家の考えが見えてこない。現実に、協同会社は数多く存在しているため変わらないと考えているのか、それとも世界的な変化を踏まえた協同組合の将来的な選択肢の1つとして、その「副作用」も含めて考えているのかどうか。あるいは国内各地域での競争と生き残りに精一杯であり、十分な議論など行われていないのか、正直よくわからない。
 また、仮に議論がなされていても国内の競争環境のみの分析であり、国際的な潮流を深く検討しているのかどうかは、さらに見えてこない。
 昨年末にこのコラムでも紹介したとおり、世の中には、カナダやオーストラリアのように、協同組合の事業モデルが株式会社にほぼ完全に置き換えられた例がある。その一方、北欧のArla Foodsのように、多国籍・グローバル化を受け入れた中で、「会社」形態を活用し、国際的協同組合組織として力強く活動しているものもある。
 参考までに2015年のArla Foodsの概要を示せば、7か国(デンマーク、スウェーデン、イギリス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)1万2650人の農家が出資しており、収益は103億ユーロ(1兆2360億円、1ユーロ=120円で換算)、世界の協同組合の中でも上位10に入るグローバル組織である。
 今回の農協改革議論の大前提として、例えば、今後、協同組合モデルがグローバル化した社会で生き残るための戦略や組織、あるいは政策との関係などについて、一般に理解可能な形で十分検討がなされてきたかといえば、極めて心もとない。簡単に言えば、世界の協同組合組織の動向について「知らない」人が多すぎるのかもしれない。これは我々研究者も実情の普及に積極的に貢献したかどうかという点で、深く反省すべきである。

  ※  ※  ※

 第2は、3Cモデルの限界である。3Cモデルがわかりやすいのは、顧客、競争相手、自分が明確なためである。しかし、現在では顧客と自分はそれなりに定義できても、競争相手が誰なのかが非常にわかりにくいことが多い。
 農協の競争相手は誰か? 商系あるいは同じ農業関連産業に属する企業なのだろうか? 全く異分野からの参入者なのだろうか? 一見当たり前の事だが、よく考えると物事は奥が深い。農家のためと言う場合でも、農家には数多くの異なるパターンがあるし、農協も同様である。
 こうしたバトルロイヤルのような状況は一般家電やゲーム機器、衣料品などになると一層明確になる。日本で最終製品を販売している各種メーカーは伝統的な企業でも、本体は全てMade in 〇〇、製造元も同じ会社...という場合、競争相手とはそもそも誰なのかが非常にわかりにくいだけでなく、敵と味方も絶えず入れ替わる。
 誰と誰が、何のために競争しているのかが不明なままでは困る。何故なら日々の仕事に忙殺されている人や組織は異業種からの「不意打ち」に弱いからだ。「想定外」という都合よい言い訳もあるが、外部環境の変化を見ていればこうした「不意打ち」でも一定の対応は可能なはずである。

  ※  ※  ※

 良い機会ではないか。農協組織も一度、日本だけでなく世界の動きをも踏まえた上で、グループ全体で根本から協同組合としての意義を確認し、協同組合組織としての今後の将来像を検討してみたらどうだろうか。そうすれば自らの組織の本当の強さがわかる。
 外から出された目標を達成するための改革ではなく、何のためにどのような改革と組織形態が必要かという根本を問い直すこと、これこそが自己改革の本質であり、それに伴い必要な将来の姿は自然に見えてくるはずである。組織のバージョン・アップには、わかりやすい道を選んではいけないという事に尽きる。

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