TPPから見える日欧EPAの風景は?2017年1月12日
報道によれば、月内大枠合意、16日(ベルギ-時間)からの首席交渉官会合に向けて今週からベルギ-で実務級協議が始まったようだ。
しかし外務省や経産省のホ-ムペ-ジでの情報開示はほとんど無きに等しい。そして新聞報道からは、「TPP水準までは容認、一部はTPP水準以上の譲歩もあり得る」などの動きも伝えられている。
閣僚会合を含め国内外でTPP政府説明会のほとんどに出席し、協定条文のいくつかの章を分析した経験から、日欧EPAを眺めてみたい。
◆EU側、TPPに比べて日本政府の情報開示はゼロに等しい
TPPでは、日本政府も交渉前から交渉分野を開示し、ごく簡単ではあるものの概要や個別の懸念事項を公表していた。そして全く不充分ではあったが、資料・情報もホームペ-ジで公表されていた。しかし日欧EPAでは、昨年9月の交渉以降に外務省が掲載した4枚のパワ-ポイント形式の「概要紹介」と、数行程度ずつの「交渉経過」のみだ。12月の交渉については、現時点で日欧とも公表していない。
(昨)年内大枠合意か? などの進展に慌てた自民党の部会などの突き上げに対してどのような説明がされたのか知る由もないが、自民党議員の怒りだけは報道から垣間見ることができた。「影響試算」の要求にも「何が出来るか検討」という程度で、「交渉途中に試算することはまずい」、というのが政府の立場だ。
しかし、現在中断している環大西洋貿易投資連携協定TTIP交渉においてEUは欧州議会メンバ-の交渉資料閲覧を認め、また交渉方針・提案について各国で公聴会のような形の意見聴取をし(consultation)、それを公表し、そしてそれを基に交渉に臨んでいる。また、12年7月には日欧EPAの影響試算を公表している。
◆日本政府は、何を交渉しているのかもほとんど開示していない
EU側はウェッブサイトで、9月26日~30日ブリュッセルにおいて、以下の13分野で実務協議を行ったと報告している。
EU側⇒ http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2016/october/tradoc_155060.pdf
(1)物品貿易(一般規則、市場アクセス、貿易救済措置)、(2)非関税措置と貿易の技術的障害、(3)原産地規則、(4)税関および貿易円滑化、(5)衛生植物検疫(SPS)、(6)サービス貿易、(7)投資(投資家対国家紛争解決を含む)および企業統治、(8)(政府)調達、(9)知的財産権(地理的表示を含む)、(10)競争政策、(11)その他(一般的及び規制に関する協力、ビジネス環境、動物福祉)、(12)貿易と持続可能な開発、(13)(国家間)紛争解決の13分野だ。
このEUの7ペ-ジの報告に比べ、外務省は箇条書き4項目6行のみ、分野名を挙げたのは僅か6分野だ。⇒ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page6_000042.html
また2012年9月公表のコロ-ニュ経済研究所によるEUの議会向け方針説明書の分析からは、(10)競争政策に国有企業が、(6)サービス貿易には電子商取引と資金・資本移動規制自由化が含まれていることが推測される。透明性も協議されている。
まさに、TPPとほぼ同じ枠組みであり、日本の譲歩は農業、政府調達などを始め、TPP以上となることがほぼ確実だ。そして今の前のめりが続き、通常国会で日欧EPAはほとんど審議されないのではないかと思われる。
◆TPPとは大きく異なる提案も窺える日欧EPA
EUによる報告でも交渉の詳細までは見えないが、実務協議報告書から推測すると、TPPと概念的に異なる分野などではまだ議論が収斂していないようだ。
(1)デ-タ移転について明確な保護の基準をEUが持っていることが関連しているのか、電子商取引では、進展なしとされている。
(2)常設の仲裁法廷・控訴の仕組み、仲裁人の選定基準など、TPPとは異なる提案をTTIPで米国に対してしているISDSも争点が残っているようだ。
投資の定義での意見の相違もこのことに関連しているのかもしれない。
(3)TPPにはない公立大学、公立病院について、政府調達の分野で踏み込まれているとの報道もある。
(4)動物福祉(その他分野)、ILO機能への言及(貿易と持続的開発分野)などもEUの拘りだろう。
12月の交渉でどこまで進んだかはまだ明らかにされていない。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日