【小松泰信・地方の眼力】"バカの壁"こそ破壊せよ2017年2月1日
昔JK「"でんでん"のこと覚えとる? コマツ君の思い出は"でんでん"よ」
元ヤン「あぁ、知っとるよ。朝ドラあまちゃんに漁協の組合長役で出ている人やろ」
昔JK「違う! 国語の時間に"云々"を"でんでん"て読んだことさ。大爆笑やったやかね。本当に覚えとらんと?」
元ヤン「でんでん覚えとら~ん…」
これ、出身高校の還暦記念同窓会での一コマ。トラウマになることもなく、漢字の読み方に気をつけるようになったのは、このエピソードのお陰であろう。恥をかくなら若いうち。でもアベちゃん、言論の府で笑われるとは、アーソウ化。
(参考;1月24日参院本会議で蓮舫氏から「われわれが批判に明け暮れているという言い方は訂正してほしい」との抗議に、安倍首相が「民進党の皆さんだとは一言も言っていない。訂正云云(でんでん)という指摘はまったくあたらない」と答弁したこと。読み間違った答弁よりも強弁のほうが問題。蛇足だが、かつて踏襲や未曾有を間違え支持率を下げた元首相が側にいる)
◆"バカの壁"こそ安倍ドリルの出番
今国会の施政方針演説において、農政に関連する所は〈農政新時代〉と小見出しがつけられ、「地方経済の核である農業では、高齢化という『壁』が立ちはだかってきました。平均年齢は66歳を超えています」からはじまっている。今回の演説におけるキーワードの一つが「壁」であり、それを打破して成長する、というシナリオである。この「壁」を打ち破るために、8本に及ぶ農政改革関連法案を提出するとのこと。その中核に位置づけられるのが農業版「競争力強化法」である。
高齢化を「壁」とする一方で、"1億総活躍の国創り"については、「障害や難病のある方も、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、誰もが生きがいを持って、その能力を存分に発揮できる社会を創る」ではじまっている。「お年寄り=高齢者」とするならば、これまで農業に取り組み、今も営々と農業に勤しんでいる高齢者は、「壁」ではなく、立派に生きがいを持って、その能力を存分に発揮している輝ける存在である。ゆえに、農村社会こそ首相がめざす総活躍社会のお手本のはず。それを打破すべき対象と簡単に言ってのける政治家こそ「壁」そのもの。
そう言えば、かつて『バカの壁』というベストセラーがあった。この壁こそ安倍ドリルで破壊すべきである。ただし、巷ではそれを自傷行為と呼ぶ。
◆"異次元の改革"ってなんですの
日本経済新聞の社説(2017年1月25日)は、トランプ氏の"TPP永久離脱宣言"にもかかわらず、性懲りも無く「日本は今後も他の参加国と連携し、米国にTPPの重要性を粘り強く訴えていく必要がある」とする。そして、「米政権は日本にも2国間の自由貿易協定(FTA)交渉を求めてくる可能性がある。...最初から拒む必要はない。ただ交渉に入れば、米国は農産品を対象にTPPの水準を上回る関税撤廃を求める公算が大きい。日本の農産品の関税撤廃率はTPP参加国で最も低い。異次元の改革で農業自由化を進めることが、日米FTAの条件になる点を日本政府は理解しておくべきだ」と、現政権の農業改革に発破をかけている。
しかし、"異次元の改革で農業自由化を進める"とは、具体的にはどんな改革なのか。もっと詳しく指摘しなければ、言い放しの無責任な進言そのもの。おそらく、"異次元"の晋進コンビが有り難がってこの言葉を使いまくり、口害をまき散らすこと、間違いない。迷惑此の上ない。
◆ここにも"バカの壁"あり
目を覆いたくなるようなちぐはぐ極まりない書きぶりなのが、「農業戦略」と題する東京新聞の社説(28日)。まず、前述の「競争力強化法」の実態をJA改革とし、いわゆる「攻めの農業」を目指したものと整理する。ここまでは普通。ところがどういう風の吹きまわしか、農業は「私たちの食生活を守り、国土を保全し、四季折々の景観を醸し出す、この国の基盤の一つ」と持ち上げる。さらに「中山間地の小規模農家も、その役割の一翼を担っており、効率化や競争原理だけでは割り切れないのが農業だ。農地集約、大規模化にも限度がある」と続けた上で、「農政改革が"農協つぶし"になっては、農家が困る」と、農業や農協への理解を示す。やっと東京新聞らしくなってきたぞ、と誉めたくなった私バカよね、おバカさんよね。
後悔させてくれたのは直後の「TPPがあろうとなかろうと、農家も一律の補助金漬けから抜け出して、農業経営者へと進化を図るべき時だ。農協も金融、販売(?小松)部門に重きを置きすぎた」という見飽きたフレーズ、"バカの壁"。
◆俗説漬けへの処方箋
"補助金漬け"という俗説を鵜呑みにした不勉強なこの社説子には、「米国のコメ生産コストはタイやベトナムの2倍近い。それでも1俵4000円で輸出し、農家にはしっかり作ってもらうために『1万2000円との差額はいくらお金がかかっても補填しますよ』というたぐいのことをやっている。それに比べたら、日本の農業が過保護などというのは間違いである。日本の農家に輸出補助金はあるか。ゼロである。米国は穀物3品目だけでも、多い年は実質1兆円である。...また、日本の農家の所得のうち補助金の占める割合は4割弱で、先進国では最も低いほうである。かたやEUの農業所得に占める補助金の割合は英仏が90%前後、スイスはほぼ100%。...命を守り、環境を守り、国土を守っている産業を国民みんなで支えるのは当たり前なのである。それが当たり前でないのが日本である」という鈴木宣弘氏の見解(JAcom農業協同組合新聞2016年9月29日)を処方しておく。
このような農業を巡る内外からの無理解な圧力のもとで、農業協同組合が金融(信用と共済)事業の収益からの補填によって、精一杯営農面活動に取り組んできたことは、賞賛されこそすれ、批判されるようなことではない。
農ある世界が置かれ続けてきた情況を一顧だにせず、「農協は営農支援の本業に立ち戻り、農家と二人三脚で新しい時代を切り開く-。それが本来の在り方だろう」などと、利いた風なオチしかつけられないのなら、筆を折れ。それは出来ぬと言うのなら、せめて七重の膝を八重に折れ。
「地方の眼力」なめんなよ
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