【リレー談話室・JAの現場から】常滑の曜変天目茶碗(※)2017年2月20日
昨年12月、TV番組の「なんでも鑑定団」に世界で4個目の曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)が登場した。鑑定士・中島誠之助をして「番組始まって、最大の発見」と言わしめた。日本に現存する3個は中国南宋の時代(12~13世紀)に焼かれたもので、すべてが国宝に指定されている。東京世田谷の静嘉堂文庫美術館の一碗はもっとも美しいものとされ、数年に一度公開される。昭和55年に上野の国立博物館での展示を観たのが最初だ。
JAあいち知多は焼き物でも知られる常滑市に拠点をもつ。JAの総合本部ビルの1階フロアの一角に地元の著名な陶芸家・画家の作品を展示するなど、地域のJAとして異彩を放っている。このJAの組合員に久田重義という陶芸家がいた。昭和21年に生まれ、同志社大学工学部に学び、故郷の常滑市で陶房を構えて作陶に励み、平成13年に55歳で自らの生涯を閉じた。久田は一代の陶芸家で、昭和63年ごろに「曜変天目茶碗(※)」を発表したことで知られる。曜変作品は陶芸界のピラミッドの頂点に君臨する一個の石のようだ。積み上げるべき石の多さと重さのため、数多くの陶工が挑戦しては諦めた困難な作陶だ。
平成9年7月、仕事で訪問したJAあいち知多の共済部長・中北春彦氏(現専務理事)との陶芸についての会話が始まりであった。
伊藤 「焼き物といえば、高校生のころにNHKの番組で曜変天目茶碗の再現を目指す陶工の物語を見た。現代の陶工たちが試みたが、誰も近づくことができない。あれから誰か、曜変の再現はなったのだろうか...」
中北 「奇遇だ。常滑市のこのすぐ近くにそれを再現した陶芸家がいる。私の友人だ。苦労に苦労を重ねた人だ。行こう、観に行こう」
本人外出の久田重義宅を訪問すると、「曜変天目茶碗(※)」2個と「曜変ぐい呑み」3個が、訪れる人もないという土間のガラスケースに存在した。これらに共通する曜変の美しさに心うたれた。ある秋の夜の澄みわたった満点の星空。漆黒の宇宙に浮かぶ一つひとつの星が瑠璃色に輝くようだ。諸説ではケイ素やマンガンなどを含む釉薬が炎に反応し飛び散って輝く星紋となるというが、はっきりしていない。
曜変作品は艱難辛苦の技術をつくしたのちに偶然を呼び寄せるところに価値があるともいわれる。近年は、複数回焼いたり、星紋のもとになる紋様を描いたり、1300℃といわれる窯の温度をITで管理して確率を高め、静嘉堂文庫のそれに近い作品も生み出されている。久田亡き今日、ピラミッドの石を積み上げたともいえる彼の曜変作品は、1、2点を除き散逸して世に紹介されることはない。現存が確認されている「曜変ぐい呑み」の一つが写真だ。
ところで、久田は曜変にとりつかれた非業の陶芸家といわれるが、そこはどうなのか。中北氏によれば、久田は再現した曜変にはかなり自信をもっていたが、満足はしていなかったという。国宝3品に敬意を表して自らの作品は「曜変天目茶碗(※)」としている。また、曜変作品以外の油滴天目や鉄釉を追究した作品がJAの美術フロアに展示されており、多様な作陶によって境地をきわめてもいたのだ。日本伝統工芸展では鉄釉作品で平成8年と11年に最高賞を受賞するなど、この分野での人間国宝の候補と目されていた。平成11年と13年には「曜変天目鉢」でも入選している。
久田は伝統工芸の枠の中で活動したが、なかには南宋時代の方法をきわめ孤独に再現を目指すもの、先述の二度焼きなど現代の技術を駆使して結果を出したものなど多様だ。いずれにしても資力も費やすストイックな挑戦である。久田は真面目で他人との会話は得意ではなく、いくつかの陶芸技法を追究しながら曜変に至る仕事ぶり、そのような作陶人生を貫きたかったのではないか。
久田の仕事を理解し応援した中北専務は画家でもある。時代の中で変化する焼き物の故郷を描いてきた。今年1月、久しぶりに常滑を訪ねた。地域の農業や文化そして久田重義が生きて残したものをめぐる論議は、20年を経て今後も続くものと思われた。
※印のある文中の「碗」の字は、正式には?の字に皿です。
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