ルビコン川を渡る時2017年2月21日
今私は農協の組合長をしていますが、農協という組織に違和感を感じる時があります。それは私が農協に入って9年という短い経験しかない、また馴染んでいないからかもしれません。しかし、農協は組織の存在意義である生産者の所得の増大という目的達成に、全力で取り組める仕組みになっていない、また持っている能力を十分発揮できない真の要因は、農協的な思考法や農協特有の組織論に振り回され、とても効率が悪いからだと思います。
現在多くの農協において、金融事業の先行きが芳しくないことが予想されることから、合併という言葉が行き交っています。しかし、現実問題として以前のような合併とは違いスケールメリットは出しにくく、経営の健全化は難しいのではないでしょうか。今こそ農協は腹を括って生産者のコスト削減や、特に農産物の高値販売に貢献できる体質づくりをするべきであり、農家が潤う農協へと原点回帰をすべきです。
平成7年に静岡県浜松地区の農協合併が行われました。私ども三ケ日町農協も、一緒になることを前提に合意寸前まで検討しましたが、合併した場合「三ケ日みかん」というブランドが無くなることがわかり、将来の見通しも立たないなかでしたが合併を辞退いたしました。合併された農協の皆さまにはたいへんな御迷惑をかけることになりましたが、その時の組合員の気持ちは「三ケ日みかん」というブランドが無くなるのなら農協はいらないということでした。当時私の父親が組合長をしておりましたが、組合員の考え方もいろいろであり、合併するかどうか悩んでいる父の姿を身近で見ていました。
ルビコン川を渡ったシーザーではありませんが、合併辞退により退路は断たれどんなに経営が厳しくなっても合併という選択肢はなくなりました。三ケ日町農協は自主自立するため覚悟を決め、農業者と利害が一致する組織として営農、経済事業の強化に努めてきました。
平成28年度決算予測は過去10年間で一番良い数字であり、事業総利益における本業(販売と購買)の構成比は約5割強、将来的には7~8割にするのが目標です。
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また、私ども三ケ日町農協は、昭和30年代に当時の経営者の放漫経営により経営破たんしています。貯払い停止になりましたが、それからの経営再建には組合員の力が必要であり、有線放送、自動車整備工場(オートパーク)、Aコープ事業の立ち上げには青年部、女性部を中心にたいへんな協力をしていただきました。そんななか職員のなかに農協人といえる人材が育ったように思いますし、農協と組合員との関係はいっそう深まり、それが現在も続いています。
また、生産者・組合員目線の経営をしなければ農協の存在意義はないという価値観ができ、農協としては当然ですが、それが経営姿勢になっています。
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小池百合子東京都知事がよく紹介する経営学者野中郁次郎らの書いた「失敗の本質」という本があります。太平洋戦争でなぜ日本軍が米軍に負けたのかということを、組織の在り方という視点から書いたものですが、知事の都政改革における、どんなことにも動じない姿勢にはこの本が大きく影響しているように思います。
農協改革を国から求められ、右往左往している農協は当時の日本軍によく似ているのではないのでしょうか。順調な時には強く全面展開できても、環境の転換期には一転して閉塞感に陥り、突破口を見いだせない、ほとんどの職員は一生懸命働いているのに「組織的な欠陥」のため成果を出せていない現状です。
それは俯瞰的な視点からの最終目標への道筋が示されない曖昧な戦略、過去の成功体験が頭から離れず自分の限界を組織の限界にしてしまう、そして自己の権威や自尊心、プライドを守るために目の前の事実、優れた意見を無視してしまうリーダー、厳しい現実から目を背ける農協的メンタリティー、自分たちで優位に事業ができるルールをつくり出せないイノベーションの不在などです。
私は目の前にある農協改革をかわしても、時代の変化に対応できる農協に変わらなければいずれ危機的状況が来るように思います。今がルビコン川を渡るときなのかもしれません。
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