(020)「コメ」の需要は「どこで」伸びるか?2017年2月24日
勤務先の宮城大学で卒業論文の発表会が終了した。ここ数年、研究テーマの中には「米粉」を活用したものがいくつか見られる。これ自体は喜ばしいことであるし、今後もコメの国内需要を伸ばすために様々な視点から研究を継続・発展させてほしい。
農林水産省の平成27年度「食料需給表」(注1)における、「国民1人・1年当たりの供給純食料の推移」におけるコメの数量を見ると、1965(昭和40)年には111.7kgであったものが、2015(平成27)年には概算値で54.6kgに低下している。簡単に言えば、50年前には2俵であったものが、現在は1俵にも満たなくなっているということだ。
こうした事情を背景に、国内需要を喚起するために様々な検討がなされていることは、ここではあえて議論しない。むしろ、ここで指摘したい点は、例えば、米粉のように「どのようにコメを使うか」という点ではなく、「今後どこでコメの需要が伸びるか?」という点に関する世界的な視野での議論がやや少ない点が気になることである。
日本の高齢化と人口減少は周知の通りである。単純に市場規模で考えてみれば、将来的には「恐らく」日本国内での需要は減少するであろう。「主食」という意識を大多数の国民が保持している現代ですら、現実の食生活の中で1日3回必ずコメを食べる人は、地方や世代により異なるとはいえ、半世紀前に比べれば大きく減少してきているはずだ。その結果が、先に述べた数値に現れている。
※ ※ ※
表のPDFはこちらから
ところで、2017年2月17日の米国農務省が公表した2026年までの長期見通し(注2)によると、2015年時点で年間3972万トンのコメが国際市場で取引されている。さらに、この数字は2026年には4789万トンへと伸びることが見通されている。11年間の平均成長率を計算すると101.7%となる。絶対値では817万トンが貿易量拡大として見通されている。言い換えれば、11年間で、世界では日本のコメの全生産量に匹敵する数量の貿易需要が新たに生じるということになる。
では、コメの輸入需要はどこで生じるのか?
公表されている資料が正しいとすれば、818万トンの需要増の大半は中東及びアフリカ諸国である。その中でも西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を構成する15か国だ。筆者の大学にも構成国の1つであるセネガルからの留学生がいる。日本のコメの評価を聞いてみたがすこぶる高い。
ECOWAS地域の輸入増は213万トンと全体の26%になる。さらにサハラ砂漠以南のアフリカ諸国が124万トンであり、これら2つの地域でコメの需要増の41%になる。別添の表に詳細を示しておく。
次に、その需要増に対し、彼らはどこからコメを調達するのであろうか。
もちろん国内生産増加もあるが、米国農務省の見通しでは、約800万トンの輸出元として、タイ(263万トン)、ヴェトナム(175万トン)、インド(128万トン)、そして米国(44万トン)、つまり4か国で610万トンを占めることが予想されている。
これは何を意味しているか。一言で言えば、中東とアフリカに現れつつあるコメの巨大市場の獲得競争が既にグローバルなレベルで始まっているということに他ならない。そして、例えば、アフリカへのコメ輸出ということになれば、タイやヴェトナムなど、アジアの国々が強力な競争相手となることをも意味している。
※ ※ ※
米粉を使用して日本国内のコメ需要を拡大させようとする取組み、これはこれで良い。しかし、同時並行的に、コメをめぐる世界のマーケットがどのように変化してきているのか、そして、今後、現在のコメの生産国は、急増する海外のコメ需要にどう対応していこうとしているのか、こちらも重要なポイントであろう。片手落ちではいけない。
ベナン、ブルキナファソ、カーボヴェルデ、コートジボアール、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シェラレオネ、トーゴ、以上がECOWASの国々である。これら各国の首都はおろかその位置すら知らない日本人が多い。まして、これらの国の人々のためにコメを作るという意識を持つ日本の農家は現段階ではほとんどいないであろう。それでは新たに市場を開拓することなど遥かに及ばない。顧客のニーズを知ることは商売の基本中の基本である。
日本のコメが世界で一番良いと信じ、需要を伸ばしたいのであれば、世界のどこでコメが求められているか、顧客のことをまずは知るべきではないだろうか。
注1:農林水産省「食料需給表」, 2016年8月。http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/attach/pdf/index-1.pdf
注2:USDA, "USDA Agricultural Projections to 2026", Feb 2017. https://www.usda.gov/oce/commodity/projections/USDA_Agricultural_Projections_to_2026.pdf
重要な記事
最新の記事
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日
-
厚木・世田谷・北海道オホーツクの3キャンパスで収穫祭を開催 東京農大2024年11月22日
-
大気中の窒素を植物に有効利用 バイオスティミュラント「エヌキャッチ」新発売 ファイトクローム2024年11月22日
-
融雪剤・沿岸地域の潮風に高い洗浄効果「MUFB温水洗浄機」網走バスに導入 丸山製作所2024年11月22日
-
農薬散布を効率化 最新ドローンなど無料実演セミナー 九州3会場で開催 セキド2024年11月22日
-
能登半島地震緊急支援募金で中間報告 生産者や支援者が現状を紹介 パルシステム連合会2024年11月22日