(021)「食と未来」とピザ2017年3月3日
数年前から「食と未来」という授業の1コマを担当している。これは大学教員になってしばらくした当時の筆者が言い出し、同僚にご理解を頂いた上で継続しているリレー講義である。学科の教授、准教授が各1回、自分が最も話したいことや、一番熱心に取り組んでいる研究内容などを好きに話す。対象は学科の4年生全員、しかも後期必修である。
通常、大学の場合は1~2年はいわゆる教養を幅広く学び、3~4年の専門課程に移るにつれて細分化した専門性を追求するカリキュラムになっている。要領の良い学生などは概ね3年次までに必要な単位をほぼ修得してしまい、4年は卒論のみということも多い。
そこにあえて必修科目、それも4年の後期にこの科目を入れ込んだ。これには気心が知れた同僚からも当初からいろいろな意見が出た。最初は、卒論が忙しい時にこのような科目は不要、次に、せめて選択にすべき、あるいは大事な科目だから1年の最初に入れるべき等々...。もうひとつ記憶に残っているのは、何を食べてきたかという「食の歴史」や「食の過去」にすべきではないか...などである。
最近はこれでも「柔和」化したと思う筆者は、当時、以下のような反論をした。
4年生の最後だからこそ、細かい専門性にとらわれず、文系理系の枠を超えて、「食」を全体からとらえ直す機会を、卒業前にせめて週に1度位は持ってほしいこと。選択ではなく必修とすることにより、一緒に入った約50名の同期が週に1度、必ず顔を合わせる機会がカリキュラムというシステムの中にビルト・インできること。1年生の最初ではそれなりの感動は与えられるが、やはり4年間学んできた知識や技術を総動員した上で、あらためて「食」を考え直して欲しいこと。そして、これから社会に出る学生にとっては、「過去」の話ではなく、「未来」につながる食こそを考えてほしいこと、などである。
これら以外に、当時の議論の中で、筆者が言わなかった理由をあえて若干付け加えておこう。それは多くの大学生、特に1~2年次の学生にとっては単位の取得し易さだとか、目の前の関心が科目選択の中心であることが多い。
そのため、学科の多くの教員が実際にどのようなことに関心を持ち、研究をしているのかを知る機会がないままに卒業していく姿を良く見るようになったからである。18~22歳位までの学生達の知識や技術習得の変化、そして成長はものすごい。適切なタイミングで適切な講義を出来ているかどうかは、今でも悩む。
※ ※ ※
私の学科は様々なバックグラウンドを持った学生達が「食」を共通項として4年間一緒に過ごし、また様々な世界へ巣立っていく通過点である。その最後の半年だからこそ、個別分野に細分化した関心をあらためて統合してほしいというささやかな思いがあった。その上で、学生達がこれから出ていく社会は、多くの場合、好きで選んだ「教員の専門性」とは余り関係が無いよ、あとはどう活用するかだけとのメッセージも込めたつもりである。
※ ※ ※
先日、今シーズンの「食と未来」の講義も無事に終了したところ、同僚の1人が「番外編」として期末試験最終日の翌日に「ピザ」の製作を実施した。卒論執筆と試験期間中はゾンビのような顔をして廊下を歩いていた学生達が、まるで新入生のような笑顔で、生地を作り、ピザを焼き、残りの一部を研究室にもおすそ分けしてくれた。ありがたい限りであり、深く感謝したい。
さて、学生達が焼いたピザの切れ端を食べながら、別の事を考えた。米国の巨大なピザ・チェーンが中国市場に初めて参入した際、ピザに対する評価は散々なものであったらしい。こんなものが食べられるかと。それが、今では巨大なマーケットとして急成長している。
自分自身は40年以上前の高校生時代に初めてピザを食べたが、今ではどこでも食べられる日本の「食」の1つである。何百年も続いている伝統食がある一方で、わずか数十年で当たり前のように入り込んだ新しい食もある。30年後の未来、私達は何を食べているのだろうかと考えることは、過去を探求するのと同じ位ワクワクする。
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