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【リレー談話室・JAの現場から】小農家あっての農協2017年3月14日

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【小内 敏晴 /群馬県・JA佐波伊勢崎理事】

 組合員はなぜ農協に加入し、あるいは脱退せずに留まっているのか。それは、究極的には自らの生産・生活を豊かに充実させたいという欲求と、仲間も同じに充実することに満足を覚えたいという願いからである。生産者あるいは地域の関係者が協同活動を行うことで、単独行動より合理的かつ効率的に目的を達成できる。そのために組合員一人ひとりは組合に何を求めているのか、事業の中で、何をどのように利用したいのか。この要望に応えるため何をどのように整備し実践するのかが協同活動である。

 従って、組合が活動指針を考える際、常に念頭に置くべきは、特別な一部の組合員ではなく、大多数の組合員に共通する要望とは何か、それを実現することが組合活動の再生産に結びつき、併せて組織が再結集され、それによって最大公約数的に事業利用が伸長されるかどうかである。
 組合がヒト・モノ・カネを整えるとき、すべてこの根本原理に沿って進めなければ活動あるいは組織はやがて衰退する。このことを戒める言葉として、東大の鈴木宣弘教授が「今だけ、金だけ、自分だけ」という表現を使って、協同組合の対極に位置する考え方に警鐘を鳴らしているが、このような優越的な考え方に流されれば、やがて自らが、一層の「今だけ、金だけ、自分だけ」に踏みつけられるということである。
 エイティー・トゥエンティーの法則という言葉がもてはやされて久しい。イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した統計学的な事象のばらつきを示すものだが、近年、農協の営農経済事業でこれをマーケッティグの基本とし、組合員を規模と利用度で峻別する傾向が見られる。つまり組合事業利用量の8割は、全体の2割の利用者で占めているということである。。
 利益の8割は2割の大規模利用者によってもたらされるのだから、事業はこの2割の人たちを主眼に置いて行うべきであると考え方が主流になりつつある。一見合理的で反論できないように思えるが、危険な"両刃の剣"的な考え方である。
 なぜなら、その他の8割がいなくても協同活動が成立するのか。胸を張って8割の組合員に「あなた方を軽視しますよ」と言えるのか。それで農家の大多数が組合に結集できるのかということだ。忘れてならないのは、一見不合理に思えるその8割の結集と協力の中から、やがて次の2割が出現してくるのであって、8割の結集なくして次の2割も育成できない。つまり組織が立ちゆかなくなるということである。

◆   ◇

 協同組合がなぜ一人1票制で、加入脱退の自由を堅持しているのか。規模の大きな者を優遇し、あるいは零細な人たちを軽んじれば、結果的に組合員の結集を阻害し、協同組合における再生産が行われないということである。
 まして総合農協は各事業間において2割と8割が入れ替わることが多い。具体的には、「農産物の販売は少額だが、貯金・共済は協力しよう」「貯金はできないが生活物資は農協を利用しよう」「契約栽培などは大規模農家に譲り、自分は直売所で販売するなど」例を挙げれば限りない。知らぬ間に2割が8割に支えられているのである。
 厳しい農業情勢の中で、農家にこれを自覚せよとはなかなか言いにくいが、農村・農業の興隆のための農協活動であれば、繰り返しこれを言い続けなければならない。近年、時代の寵児のように、自分勝手な大規模農家が持てはやされ、公然と「彼らを優遇すべきだ」との論理がまかり通っている。しかし、このような考え方に傾倒すれば農業が、あるいは農協運動が衰退の道をたどり、地域と地域農業が崩壊へ向かうことは明らかである。

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