【読書の楽しみ】第12回2017年3月14日
★宇沢弘文
『宇沢弘文傑作論文全ファイル』
(東洋経済新報社、4860円)
自由と尊厳を何より重視された宇沢先生が亡くなられて2年半になります。このほどその膨大な論文の中から代表的なものを集めて著作集が編さんされました。
社会的共通資本という概念をベースにした経済論考はもちろん重要ですが、環境、医療、教育、農業などについての批判的提言が多数収録されていて読み応えがあります。
本書は400ページにわたりぎっしりと文字の詰まった、そして値段もけっこうする重い本ですが、農業関係者にとっては貴重な論文が全体の1割弱、割かれています。組織の「共通資産」として備え付けられるのもよろしいのではないかと思量します。
その内容は日本の農政批判に始まり、コモンズ(共同体的資源)としての農業、そして「農社」の提言など、持続的農業への熱い思いが伝わってきます。本紙にも何度か登場して話をされたTPP批判も短いですが収録されています。
なお教育への危機意識とリベラルアーツ教育の重要性の指摘には全く同感で、現下の政治家、経済人の問題点はここに起因するのではないかと思います。ミルトン・フリードマンの市場原理主義をめぐるエピソードは面白く、かつあきれてしまうほどひどいです。
★青木理
『安倍三代』
(朝日新聞出版、1728円)
安倍首相の祖父というと母方の岸信介ばかり注目されますが、父方の祖父に安倍寛がいます。寛は大政翼賛会を拒否して無所属で国会議員となり反戦を貫いた上に、地元山口ではとても人望が厚かったらしい。戦後すぐの総選挙を前に惜しくも病死しています。
その息子、晋太郎も病死した悲劇の政治家です。右寄りの政治家と見られていますが、実は憲法擁護、リベラル派で、バランス感覚も豊かだったとか。
一方、晋三は小学校から大学まで一貫校でしたが、成績は凡庸、まるで目立たぬ生徒で大学生になっても政治的関心は希薄だったそうです。なぜそんな人が一強と言われるほど強いのか、日本の政治はその程度と思うしかないのか、考えさせられます。
本書は安倍三代について地元民や同級生などを丹念に取材して回り、三人の実像に迫っています。安倍首相と祖父や父との意外な非相似性は新鮮でとても面白い。寛や晋太郎のことはめったに触れない首相の心の奥底に何があるのでしょうか。
★植松三十里
『雪つもりし朝』
(KADOKAWA、1620円)
本書の副題は「二・二六の人々」で、事件にかかわった人々を題材に、事実に忠実に描いたノンフィクション小説の秀作です(もちろん小説ですからあちこちフィクションも混在しています)。
主人公は首相の岡田啓介、侍従長の鈴木貫太郎とその妻タカ、元内大臣の牧野伸顕と孫の麻生和子など軍人に命を狙われた人々と家人、そして昭和天皇の実弟秩父宮など。事件現場を再現しつつ、後日談、つまりは現在へとつなげる構成は一気に読ませます。
もちろん決起将校たちも描かれますが、異色なのは後に「ゴジラ」を監督した本多猪四郎が歩兵部隊の一兵士として登場し、戦後の映画製作に体験がつながってくるという物語はなかなかうまい。
二・二六事件をあまり知らない人にはぜひお勧めしたいですが、十分知っているという人にも新しい世界を広げてくれるでしょう。そして今の世界を考える材料としても出色の出来と言えます。
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