私たちに権力はない、あるのは「助け合い」2017年3月14日
「農業」の二文字ほど家族そして地域を思い起こす単語は見当たらないのではなかろうか。そこには地域づくりをしなければとかいった「づくり論」は存在しない。何気ないつながりがこれまでの農村社会を営々と繋いできたと思っている。
21世紀にかけて急速に進んだ「情報革命」が私たちの暮らす農村を劇的に変えた。すべてがビジネスという「勝った負けた」論に終始し、小さなおせっかいや何気ないつながりで生きてきた人々の暮らしを大きく変えたとも言える。組織もそうだ。これまでは一定の枠組みの下でゆっくりと小さな改善をしながら仕事をしていれば組織は安泰であった。ルールやマニュアルからはみ出ようとするメンバーがいないか注意しながら「エイエイオー」とチームを鼓舞する軍隊の隊長のようなリーダーシップが求められていた。
※ ※ ※
昨今、JAの金融事業の在り方を巡って様々な情報が行き交っている。そもそもは規制改革推進会議農業ワーキンググループの実態をあえて無視した乱暴な要求が大きな引き金になっているのではあるが、公認会計士監査の義務化を二年後に控えあたかも代理店を選択せざるを得ないという状況にJAが追い込まれつつあるという論に対し、全中や農林中央金庫はどのように応えるのであろうか。
※ ※ ※
JAが経営体としてなすべき優先事項は公認会計士監査に対応できる態勢の整備であることは自明のことであるが、現場にはいまだ戸惑いがあるのではないか。特に内部統制に関しては、業務フロー、業務記述書、リスクマトリックスといった3点セットの整備は必須のものとして様々な情報が発信されており、現実に整備も進んではいる。しかし、運用はどうなるのだろうという漠たる不安が消えることはない。木を見て森を見ないことがあってはならないと思うのだが。公認会計士監査が求めるものは何であるのか手段と目的が入れ替わっていてはならない。
※ ※ ※
同時に、すべてに最優先すべきは総合農協としての価値を組合員の認知レベルを高めることではないか。それは、JAがきちんと組合員に向き合うことでしか解決しない。「これからも自分たちのくらしと農業になくてはならぬ存在である」としっかり声を上げてもらわなければ、わけのわからない勢力に簡単に飲み込まれてしまう予感がする。だが、いつの間にか組合員をお客様扱いして来た活動や事業の実態から声をあげてくれるだろうかとの懸念が消えない。お客様は自分にとって都合が良いか悪いかだけ判断するからだ。心配でならない。
※ ※ ※
農協法改正の折に私は、法を改正してある勢力の意を汲んで自分たちがしたい方向に様々な仕組みを変えていくことのできる「権力」というものに、一抹の恐ろしさを覚えた。
ではどうすべきなのか。
私達には権力はない。私たちにあるのは互いに助け合い地域で生きていこうとする「想い」である。想いはことばを通じてしか伝わらないもの。ことばはJAという組織の背骨でもあり、より正確により深く、クリアに通じなければならない。このコラムにも書いたが、JAの会議文化が今のままでは、組合員は「自分の組合」として声を上げることは決て無いだろう。誰が主役なのか、当たり前のことが当たり前にできていなかったことを認識した上で、すぐにでも変えていく必要がある。
※ ※ ※
地域にあって総合農協としてのプレゼンスを高める取り組みは待ったなしである。これまでの取り組みが不十分であった点をきちっと認識すれば、やるべきことは見えてくる。その際必要なことはあらゆる事象を数値化することだ。数字にしないと何も見える化しない。
※ ※ ※
急いですぐやる課題が多すぎて身動きできない状況を脱却して、もう一歩先を見つめながら、JAグループが相互に支え合って一丸となって打開していくべきである。自分の組織さえ生き残ればという発想があるとするならばそれは自滅の道であろう。
「農業の元気づくり」はJAの一丁目一番地。家族あっての農業、家族あっての地域である。
耕す、植える、肥料をやる、水をやる、見守る、話し合う、感謝する毎日でありたい。長い時間をかけて営々と築かれて来た農村を強者の論理で覆い尽くさせてはならない。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日