(026)鯨から豚、そして鶏へ...2017年4月7日
このタイトルは何か?
簡単に言えば、過去約60年の間に、日本人の食肉需要がどう変化したかを、簡単なデータから見たものだ。
農林水産省が公表している食料需給表(注1)には「1人当たり供給」という項目があり、その中に「1年当たり数量」が示されている。この「肉類」の部分を見ると2014年の数字は30.2kgである。年間約30kgという訳だ。まず、これを覚えておきたい。
これを食肉の種類別に見ると、多い順に、鶏肉12.2kg、豚肉11.9kg、牛肉5.9kg、その他0.2kgという内容である。このデータは1960年から時系列で公開されているが、これを見ると日本人の食肉需要がどのように変化してきたかがよくわかる。
下の表は、その内容を簡単にまとめたもの、グラフは同じデータを長期推移で表したものである。(肉類の数字と合計が一部不整合な点は四捨五入の関係であると思う。ご容赦願いたい。)
【鯨の時代】
1960年当時の1人当たり年間供給量で見ると最も多い食肉は鯨肉の1.6kgである。その数字は1962年には2.4kgでピークを迎えている。1966年までは何とか2.0kgを維持したが、その後は年々減少し、現在では捕鯨環境の国際的な変化に伴い、調査捕鯨以外が不可能な状況にある。食料需給表上は1987年以降、0.0kgという状況が継続している。
興味深いことだが、高度成長期を1960年代とすれば、前半から中盤の日本を食肉という面で支えたのは鯨と考えることができる。筆者は1967年に小学校に入学したが、当時の給食にはまだ鯨肉が出ていたことをよく覚えている。鯨肉は当時の日本における食肉の中心だったことがわかる。
鯨は1963年に豚と並び、翌年には2位になる。そして1966年には2.0kgで鶏の2.1kgに抜かれ3位に落ちる。以後は、先に述べたとおりである。
【豚の時代】
1963年に2.0kgで鯨と並んだ豚は、その後長い間、とくに東日本を中心にかつてのローマ帝国のような絶対1位の座を長期にわたり継続している。関西圏の人々には信じられないかもしれないが、関東以北では、スキ焼と言えば豚肉、ステーキと言えば豚ステーキの時代がかなり長い。筆者自身、子供時代、豚ステーキは何度も食べたことがあるが、まともな牛のステーキを初めて食べたのは大学時代の南米留学においてである。日本人の食肉の中心が豚であった時代とも言えよう。
【鶏の時代?】
さて、豚の時代は長期にわたり安定していたが、そのすぐ後ろには鶏がしっかりと需要を獲得していた時代でもある。豚の時代から鶏の時代へと転換したのはつい最近、2012年である。この年、豚は11.8kg、鶏は12.0kgとなり、少なくとも1960年以降で初めて鶏が日本人の年間1人当たり供給量で首位に躍り出ている。
それ以来、鶏は3年連続首位であり、2014年には12.2kgと2位の豚の11.9kgをわずかではあるが引き離している。
ちなみに、牛は1990年代半ばまでは伸びていたが、その後はBSE(牛海綿状脳症)やFMD(口蹄疫)などの疾病の影響で需要が低迷、その後回復し、近年はようやく需要が落ち着いてきている。
※ ※ ※
さて、わが国の食肉消費はこれから「鶏の時代」が継続するのだろうか? それとも再び「豚の時代」に戻るのだろうか? あるいは豚と鶏の2強時代か?
ここで、参考のために、1970年から2014年までの米国の数字を示す。以下のアドレスを見て頂きたい。
https://www.ers.usda.gov/webdocs/charts/janfeb17_finding_bentley_fig01png/janfeb17_finding_bentley_fig01.png?v=42768
食文化や食生活の違いがあるため、断定は出来ないが、長期トレンドで見た場合、牛肉(赤色部分)の減少が鶏肉(黄色部分)の増加で補われていることがわかる。ただし、鶏肉需要そのものはここ10年程で見る限り、余り拡大していないようである。
最後にもう1点、2014年に東北大学が報告した研究の中に、1975当時の日本食が長寿や学習記憶能の維持に有効というものがあったと記憶している。1975年の内訳は先の表のとおり、肉類合計で約18kgであり、畜種別のバランスも良い。これに対し、近年の比較では我々は約30kg、米国の年間1人当たり食肉供給量は約180ポンド(82kg、1ポンド=0.4536kg)、それでもまだ倍以上の差がある。
1975年といえば筆者は15歳、高校受験の最中である。このバランスが育ち盛りの受験生の学習記憶能に良く作用したかどうかは不明だが、いろいろな肉をそれなりに食べていた記憶が蘇る。
注1:農林水産省「食料需給表」の各データは以下のアドレスで確認可能である。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001150436
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