(028)国際競争力とイノベーション2017年4月21日
最近でこそ、グローバル市場とか、グローバル企業という言葉が一般化しているが、筆者が大学生であった1970年代後半から1980年代初頭には、こうした言葉はまだ一般的ではなかった。かの有名なマイケル・ポーターの『競争の戦略』の出版は1980年、日本語訳の出版は1982年である。苦労して原書を入手したものの充分に読みこなせず、背表紙が割れ、ボロボロになった初版は筆者の苦闘そのものである。この本は後に米国留学した際に、あらためて徹底的に読み直すことになる。
さて、当時、一般的にはポーターより遥かに知名度が高かったエズラ・ボーゲルが『ジャパン・アズ・ナンバーワン』というこれまた有名な書物を表したのは1979年である。1960年代以降の高度経済成長、その後のオイルショック等を経たものの、1970年代から1980年代にかけての日本は先進国の一員どころか、あらゆる面での環境が整いつつあり、とくに経済面では世界で最も恵まれた国の一つとして自他共に認める存在になっていた。
その一方、同時期の米国は、双子の赤字、とくに膨大な対日貿易赤字に苦しんでいた。その背景には自動車を筆頭とする米国のあらゆる産業が外国、特に日本との競争に負けているからではないかとの強い懸念が蔓延していたということを忘れてはならない。
こうした背景を考慮すれば、ポーターの『競争の戦略』が登場した背景、そして、そのエッセンスとも言える、「コスト・リーダーシップ」、「差別化」、「集中」という基本戦略の本質が見えてくる。これは、当時、貿易において圧倒的な強者であった日本に対する米国が取るべき戦略ということがその深い部分に埋め込まれていたと考えられる。
例えば、高橋はポーターの戦略を、「当時、強者とされた日本企業に対する、弱者としてのアメリカ企業への処方箋」(高橋琢磨『戦略の経営学』2頁)と指摘している。
※ ※ ※
さて、一世を風靡したポーターの戦略論を筆頭に、その後、競争、とくに国際競争というものについて多くの研究が蓄積されてきた。大きな流れを簡単に言えば、最初に特定の国や産業の競争力とは何かということが研究対象となった。次は、競争力そのものの内容あるいは構造分析という点に焦点がシフトした。外から分かりやすい品質や価格などの生産に関する競争力に加え、新製品の企画や開発力、サービスや市場に出すまでの時間などを含め、競争力というものの全体像の解明が進んだのである。
その結果、現在では競争力そのものよりも、それを生み出すような環境や仕組みをいかに作り上げ、その場所や環境を提供できるかどうかが持続的な競争力の維持に極めて重要であることが判明してきている。このような環境から生み出される新しい革新的な動きを一般的にはイノベーションと呼ぶ。
つまり、現代の競争とは、単に対象がハードからソフトへ変化しただけではなく、国や企業が、いかにしてイノベーションを起こすような基盤を提供できるかという次元、より大きな社会システムの構築という次元での競争が行われていると理解した方が良い。
これは言い換えれば、特定の産業や特定の企業の競争力強化を目指しているだけではもはや不十分ということでもある。それだけでは一時的な競争優位は確保できても、持続的な競争優位を確保は出来ない。そのためにはイノベーションを起こす基盤、つまりプラットフォームをいかに構築・提供するかが鍵だという事だ。
※ ※ ※
農業関係も同様である。行われようとしている政策が本当に農業と関連産業にイノベーションを引き起こし、持続的な競争優位をもたらすか、あるいはその場しのぎのものかどうか、これが問われている。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(176)食料・農業・農村基本計画(18)国民一人一人の食料安全保障・持続的な食料システム2026年1月17日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(93)キノキサリン(求電子系)【防除学習帖】第332回2026年1月17日 -
農薬の正しい使い方(66)植物色素の生成阻害タイプの除草剤の作用機作【今さら聞けない営農情報】第332回2026年1月17日 -
【地域を診る】能登半島地震から2年 復興法人制度活用の提案 京都橘大学学長 岡田知弘氏2026年1月16日 -
スーパーの米価、2週ぶりに低下 前週から149円下がり5kg4267円に 米からパン、めん類にシフトか2026年1月16日 -
「2026年 ISEKI Global Awards」開催 井関農機2026年1月16日 -
近づく限界、米価に暴落懸念 「2014年の再来」防げるか2026年1月16日 -
(469)なぜタイのエビは主役ではなくなったのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2026年1月16日 -
岩手県の直営飲食店舗で「いわての牛乳ありがとうフェア」20日から開催 JA全農2026年1月16日 -
縁起が良い赤い食べ物「冬土用未(ひつじ)の日フェア」17日から開催 JA全農2026年1月16日 -
バッテリー診断・価値向上によるEVコンバージョントラック普及へ 共同実証開始 JA三井リースグループ2026年1月16日 -
日本の蚕糸 消滅していいの? 3月にフォーラム開催 大日本蚕糸会2026年1月16日 -
【浅野純次・読書の楽しみ】第117回2026年1月16日 -
「花・緑ガイドボランティア」募集200人に3493人が応募 2027年国際園芸博覧会協会2026年1月16日 -
トラクタ「JAPANシリーズ」BJ65・74・90・105を新発売 無段変速ミッション搭載で2026年6月投入 井関農機2026年1月16日 -
北海道の暮らしと仕事セミナー「一次産業(農業・林業・水産)のお仕事編」開催2026年1月16日 -
防災力アップ体験イベント「もしもFES大阪2026」3月に開催 こくみん共済 coop2026年1月16日 -
推しいちごに投票「天下分け目のいちご戦国時代2026」開催 食べチョク2026年1月16日 -
フルーツ王国ふくしま「ゆうやけベリー・県産いちご」フェア開催 福島県2026年1月16日 -
「いちごさんどう2026」開幕 相武紗季をゲストに迎え発表会 佐賀県2026年1月16日


































