(029)農家の学歴と収入2017年4月28日
生々しい話だが、米国の事例を紹介する。
米国政府の資料によると、過去半世紀の間に米国の農家の学歴は大きく向上している。1970年時点では、農村部では25歳以上の大人の56%が高卒資格(学歴・資格試験を含む)を持っていなかった。この割合は2015年には15%にまで低下し、現在では農村部でも大半の大人が高卒以上の資格を持っている。さらに言えば、現在の農村部ではほぼ3人に1人が準学士(短大卒)あるいは学士(学部卒)以上の学位を保持している。
また、2000年と2015年の比較で見た場合、都市部・農村部に限らず高学歴化は進展したが、大学卒の学位を持つ人の割合は、都市部が26%から33%に上昇したのに対し、農村部は15%から19%に伸びたに過ぎない。つまり、都市部と農村部における高等教育を受けている人の格差は拡大してきているということだ。この背景には、都市部と農村部における雇用機会や賃金の差、都市部の大学を卒業した若者が農村部に戻らず、そのまま都市部で就職するというような、わが国と似た傾向が影響している。
さらに、米国の場合、地域別に加え人種別の動向も考慮する必要がある。白人、黒人、ネイティブ・アメリカン(American Indian or Alaska Native)、ヒスパニック又はラテン系、という形で見た場合、農村部で高卒資格を持っていない人の割合は、2015年時点で、先に順に述べれば13%、24%、20%、39%である。ヒスパニック又はラテン系の数字は2000年の52%から大きく改善されているとはいえ、まだまだ他の人種に比べると高い状況が継続しており、米国の農村部における大きな教育課題であることがわかる。
※ ※ ※
ところで、学歴と農家の収入にはどの程度関係があるのだろうか。
普通に考えれば、都市部の方が農村部より就業機会が多く、賃金も高い。農務省の資料は以下のような対比を示している。
平均収入を中央値(メジアン:データを小さい順あるいは大きい順に並べたときに真ん中にくるもの。ごく少数の高額所得者がいる場合などは、単純平均だと値が上がってしまい、普通の感覚の平均値からは乖離してしまう。このため、中央値の方が現実感に近い)で比較した場合、高卒未満ではほとんど差がないが、高卒で約2000ドル、大卒で約1万ドル、大学院卒では約2万ドルの差が都市部と農村部に存在する。
また、都市部では大学院卒と高卒の差は2.4倍だが、農村部では1.9倍である。高学歴の者に高額の仕事を提供できる機会は都市部の方が多いということであろう。表の右側に同じ学歴で都市部と農村部でどの程度の差があるかを単純な割り算で示した。高卒で約1割、大卒で約2割、大学院卒で3割以上の差が生じている。これでは、人生においてマネー以外に価値の基準を持たない人間は農村に見向きもしないであろう。あるいはその重要性を次世代に伝えきれなかった点にこそ、現代の米国が直面している農業と教育の極めて深い病根があるような気がしてならない。これは日本も同様かもしれない。
※ ※ ※
さて、食料・農業・農村の将来を考える際、人材と教育の重要性は必ず言われるが、米国の調査では、以上の他にもいくつかの興味深い指摘がなされている。その1つは、貧困、失業、そして人口喪失との関係である。
農務省は全米の郡(county:州の下の行政単位、全米で3142の郡がある)のうち、25~64歳の成人の20%以上が高卒資格を持っていない郡を "low education" 郡と分類しているという。これはあからさま過ぎる分類だが、その数は全米で467郡、全体の約15%になるという。しかも、その467郡のうち約8割が農村部に含まれているようだ。これらの郡においては貧困率が他より高いだけでなく、就学率が低く、失業率が高い。貧困率の中でも特に子供の貧困率が高いという地域そのものの深刻な問題が生じている。
以上はあくまでも米国の話だが、わが国の農業、そして農業教育においても為すべきことはどうも山積している。
重要な記事
最新の記事
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(2)今後を見据えた農協の取り組み 営農黒字化シフトへ2025年1月23日
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(3)水田に土砂、生活困惑2025年1月23日
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(4)自給運動は農協運動2025年1月23日
-
人づくりはトップ先頭に 第5次全国運動がキックオフ 150JAから500人参加【全中・JA人づくりトップセミナー】(1)2025年1月23日
-
人づくりはトップ先頭に 第5次全国運動がキックオフ 150JAから500人参加【全中・JA人づくりトップセミナー】(2)2025年1月23日
-
人づくりはトップ先頭に 第5次全国運動がキックオフ 150JAから500人参加【全中・JA人づくりトップセミナー】(3)2025年1月23日
-
元気な地域をみんなの力で 第70回JA全国女性大会2025年1月23日
-
【JA女性組織活動体験発表】(1)新しい仲間との出会い 次世代へつなげるバトン 青森県 JA八戸女性部 坂本順子さん2025年1月23日
-
【JA女性組織活動体験発表】(2)この地域を、次世代に繋ぐ、私たち 山梨県 JA南アルプス市女性部 保坂美紀子さん2025年1月23日
-
【JA女性組織活動体験発表】(3)私たちの力で地域をささえ愛 愛知県 JA愛知東女性部 小山彩さん2025年1月23日
-
旧正月【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第325回2025年1月23日
-
地元産米を毎月お届け 「お米サポート」スタート JAいずみの2025年1月23日
-
定着するか賃金引上げ 2025春闘スタート 鍵は価格転嫁2025年1月23日
-
鳥インフル 米アイオワ州など5州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月23日
-
鳥インフル 英シュロップシャー州、クルイド州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月23日
-
スーパー売り上げ、過去最高 野菜・米の価格影響 「米不足再来」への懸念も2025年1月23日
-
福島県産「あんぽ柿」都内レストランでオリジナルメニュー 24日から提供 JA全農福島2025年1月23日
-
主要病虫害に強い緑茶用新品種「かなえまる」標準作業手順書を公開 農研機構2025年1月23日
-
次世代シーケンサー用いた外来DNA検出法解析ツール「GenEditScan」公開 農研機構2025年1月23日
-
りんご栽培と農業の未来を考える「2025いいづなリンゴフォーラム」開催 長野県飯綱町2025年1月23日