海図なき?"TPP11"、安倍政権の通商政策2017年5月11日
◆カナダ・トロントでの"TPP11"は一体何だったのか?
カナダのトロントで2日間に渡って開催されたTPP11か国の首席交渉官会合は、11か国での発効を目指して議論を継続するという点でかろうじて結束を維持した、という危ういものとなった。発効の実現、実現のための方策については不透明なままだったようだ。日本政府関係者はメディアの問いに前向きな表現に努めたようだが、それでも「協定内容の変更を望む国もあり、今は踏み込むべきではない」「(ベトナムなどは)部分的に変更したい考えを滲ませていた」などの報道が聞こえている。更にはNZや豪州などと共に先行合意・発効の可能性までが政府関係者の話として報道されている。
日本政府は今月20~21日のベトナムでのAPEC並行の閣僚会合で何らかの方向性を共同声明に織り込むべく、直前での事務レベル協議を開催する見通しだ。
日本が交渉に参加してからでも既に4年、米国が加わってからの交渉からは7年。この間莫大な時間、人的資源、税金が投入されたにも拘わらずこの有様だ。膨大な無駄、無策と言わざるを得ない。
◆安倍政権の通商戦略の行方を占う
安倍首相は、昨年の臨時国会以来、「日本が承認することが、米国を始め各国の承認を後押しする」と繰り返し国会承認に拘っていたが、その後の経過は、それが無意味な屁理屈でしかなかったことを示している。そして年明け以降トランプ政権の対日通商政策が明確になるにつれ、「米国との2国間協議の窓は閉ざさない」から、「日米FTAも容認」と後退した上で、日米経済対話の枠組みに合意した。その上で、「米国抜きのTPPは無意味」「米国の翻意を促す」「高い水準の協定を日本が承認することは世界的な保護主義の流れに対して意味がある」など、TPPに強い拘りを見せたが、結局"TPP11"にしがみつくところまで後退することとなった。
安倍首相は現在、何とかTPPの内容を大幅に変えずに新たな協定として"TPP11"の発効を目指している。"TPP11"を、日欧EPAでのEUからの"TPP以上"の要求や日米2国間協議での大幅譲歩の防波堤とし、RCEPでは、NZや豪州と共にルールを中心にTPP基準を途上国に押しつけてアジアへの進出の途をつけるという戦略だろう。
しかしそのためには"TPP11"、日米協議、日欧EPA,RCEPの交渉全体に目配りし、譲歩を最小限に、攻めるべき分野で最大限の成果を獲得しなければならないが、至難の業だ。早期決着を目指せば日欧、日米ではTPP以上の譲歩が避けられないし、RCEPではルール面でのTPP以下を受け入れざるを得ないだろう。逆に時間を掛ければ、"TPP11"を始め、交渉のダイナミズムは失われ、下手をすれば全てが漂流しかねない。
◆安倍首相の意図はTPPを諦めるほうが実現し易い
TPPを防衛線に出来たとしても、TPP基準がルールの面、市場開放の面で量的に拡大するだけであり、農産物市場開放を始め日本にとってのデメリットを拡大するだけだ。であれば、まずTPPを止めることだ。そうすればその他のEPAで多少譲歩しても痛みは少なくできる。TPP参加国は、カナダ・米国・メキシコ・チリ・ペルーを除けばRCEP交渉に参加している。上記5か国の内カナダとは日加EPA交渉を再開することが可能で、メキシコ・チリ・ペルーとは既にEPAが発効している。そして米国とは2国間協議で精一杯頑張ればいい。
このほうが、変に複雑なEPA全ての進行・交渉内容の整合性など彼方此方に神経を使い、交渉のスピードにも気を使う、という必要はない。日欧・日米の交渉は、TPPを基準に攻めたり譲歩したりすればよい。RCEPは中・印の顔を立てつつ、TPPを規範とするルールを最大限勝ち取ればよい。これらの交渉はTPPの内容を基礎として足し算・引き算を判断しながら独立した交渉として進めることが可能だ。
※ ※ ※
それにしても5月だけでもRCEP、"TPP11"があり、日欧EPAも5月(首席交渉官)、6月(全体会合)の日程も取りざたされているし、日米経済対話の個別分野協議も待っている。そして相変わらずTPP以上の秘密主義が押し通されている。これは許せない。
重要な記事
最新の記事
-
1人当たり精米消費、3月は微減 家庭内消費堅調も「中食」減少 米穀機構2025年4月25日
-
【JA人事】JAサロマ(北海道)櫛部文治組合長を再任(4月18日)2025年4月25日
-
静岡県菊川市でビオトープ「クミカ レフュジア菊川」の落成式開く 里山再生で希少動植物の"待避地"へ クミアイ化学工業2025年4月25日
-
25年産コシヒカリ 概算金で最低保証「2.2万円」 JA福井県2025年4月25日
-
(432)認証制度のとらえ方【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月25日
-
【'25新組合長に聞く】JA新ひたち野(茨城) 矢口博之氏(4/19就任) 「小美玉の恵み」ブランドに2025年4月25日
-
水稲栽培で鶏ふん堆肥を有効活用 4年前を迎えた広島大学との共同研究 JA全農ひろしま2025年4月25日
-
長野県産食材にこだわった焼肉店「和牛焼肉信州そだち」新規オープン JA全農2025年4月25日
-
【JA人事】JA中札内村(北海道)島次良己組合長を再任(4月10日)2025年4月25日
-
【JA人事】JA摩周湖(北海道)川口覚組合長を再任(4月24日)2025年4月25日
-
第41回「JA共済マルシェ」を開催 全国各地の旬の農産物・加工品が大集合、「農福連携」応援も JA共済連2025年4月25日
-
【JA人事】JAようてい(北海道)金子辰四郎組合長を新任(4月11日)2025年4月25日
-
宇城市の子どもたちへ地元農産物を贈呈 JA熊本うき園芸部会が学校給食に提供2025年4月25日
-
静岡の茶産業拡大へ 抹茶栽培農地における営農型太陽光発電所を共同開発 JA三井リース2025年4月25日
-
静岡・三島で町ぐるみの「きのこマルシェ」長谷川きのこ園で開催 JAふじ伊豆2025年4月25日
-
システム障害が暫定復旧 農林中金2025年4月25日
-
神奈川県のスタートアップAgnaviへ出資 AgVenture Lab2025年4月25日
-
【人事異動】ヤマハ発動機(5月1日付)2025年4月25日
-
【人事異動】石原産業(4月25日付)2025年4月25日
-
「幻の卵屋さん」多賀城・高知の蔦屋書店に出店 日本たまごかけごはん研究所2025年4月25日