政府の農協改革で農家は幸福になれるのか?【普天間朝重・JAおきなわ専務】2017年5月16日
最近、政府の農業政策が全く見えてこない。唯一農協改革については異常に熱心のようであるが、政府の進めようとしている農協改革で農家は幸福になれるのだろうか?
人類が初めて農耕文明を切り開いた時、人々は今よりずっと生活は豊かになると思っただろうが、現実は真逆だった。
イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリがその著書「サピエンス全史」で「人類は農業革命によって、手に入る食糧の総量を確かに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より良い余暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。農業革命は、史上最大の詐欺だった」と主張する。
つまり、農業革命により定住化すると、至る所で支配者やエリート層が台頭し、国家が形成されていくのであるが、農耕民は常にその最下層に位置づけられ、生きていくのが精いっぱいの状態に置かれたという。農家の苦難は1万年も前の農耕文明発祥時点ですでに始まっていたわけだ。
※ ※ ※
それではその後の文明の発展は(今度こそ)農家を幸福にしただろうか?
イギリスで起きた産業革命では労働者として農民が駆り出されたが、映画「モダンタイムス」のチャップリンよろしく(元農民の)労働者は機械の部品と化し、そこから資本家と労働者という新たな階層が生まれることになる。
我が国でも江戸時代には「農民は生かさず、殺さず」として年貢米を徴収され、明治になっても小作農という形で搾取され、ようやく戦後になって農地解放によって自作農として安心して農業ができるようになったかと思えば、今度は高度経済成長期に多くの労働者が農村から駆り出される一方、黒沢明監督の映画「天国と地獄」に見るように社会は富裕層と貧困層に色分けされていった(農家が富裕層になることはほとんどない)。
※ ※ ※
農協組織というのはこれまで何百年、何千年という長期にわたり階層社会の最下層に位置づけられてきた農家の生きていくための最終手段ともいうべきもので、特に我が国の総合農協という形態は最高傑作といっていい。
それが今、政府から攻撃され、解体されようとしている。その理由を日経新聞の記事で見ると、「ウルグアイラウンドをきっかけに政府が作ったのが、有望な農家に政策の助成を集中する制度。国際競争力のある農家を育てるのが目的だったが、規模の小さい兼業農家を組合員に抱えるJAは抵抗し続けた。
農水省は小規模農家を助成対象からはずす制度を2007年からはじめた。だがJAと農林関係議員の猛烈な巻き返しで、規模で選別する仕組みはすぐに姿を消した。零細農家を守るあまり、農業の衰退を招く皮肉な結果だ」とのこと(零細農家を守ると農業は衰退するのか?)。
※ ※ ※
沖縄県では基幹作物であるさとうきび収穫がほぼ終了しているが、収量は93万トンでこれは17年ぶりのことだ。特に離島である南大東村の収量は昨年の5万5000トンから今期は10万トンの大台を超えた。47年ぶりのことだ。北大東村も昨年の1万3000トンが今期は2万7000トンと、ここも2倍だ。
小さな離島であっても、零細であろうがなかろうが、地域は頑張っている。「さとうきびは島を守り、島は国境を守る」という崇高な精神で(たとえ儲けは少なくとも)離島の農家は必死に踏ん張っている。だからJAおきなわでも(経営的には厳しいが)離島で6つの製糖工場を運営し、農家を支えている。「儲かる農業」だけが農家の幸福ではない。
我が国ももう一度原点に立ち返って、農業問題を考えてみる必要がありそうだ。
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】ブロッコリーの黒すす症状 県内で初めて確認 愛知県2025年7月3日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 富山県2025年7月3日
-
【注意報】花き類、野菜類、ダイズにオオタバコガ 県内全域で多発のおそれ 愛知県2025年7月3日
-
【注意報】ネギ、その他野菜・花き類にシロイチモジヨトウ 県下全域で多発のおそれ 富山県2025年7月3日
-
【注意報】りんご、なしに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 宮城県2025年7月3日
-
【注意報】ねぎにシロイチモジヨトウ 県内全域で多発のおそれ 宮城県2025年7月3日
-
【注意報】セイヨウナシ褐色斑点病 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月3日
-
【注意報】いね 斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月3日
-
花産業の苦境の一因は生け花人口の減少【花づくりの現場から 宇田明】第63回2025年7月3日
-
飼料用米 多収日本一コンテストの募集開始2025年7月3日
-
米の民間在庫量 148万t 備蓄米放出で前年比プラスに 農水省2025年7月3日
-
【スマート農業の風】(16)温暖化対応判断の一助にも2025年7月3日
-
令和7年度「家畜衛生ポスターデザインコンテスト」募集開始 農水省2025年7月3日
-
農業遺産の魅力発信「高校生とつながる!つなげる!ジーニアス農業遺産ふーどコンテスト」開催 農水省2025年7月3日
-
トロロイモ、ヤマノイモ・ナガイモ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第347回2025年7月3日
-
【JA人事】JA町田市(東京都)吉川英明組合長を再任(6月26日)2025年7月3日
-
【JA人事】JAふくおか嘉穂(福岡県)笹尾宏俊組合長を再任(6月26日)2025年7月3日
-
国産農畜産物で料理作り「全農親子料理教室」横浜で開催 JA全農2025年7月3日
-
ダイナミックフェア2025出展のタイガーカワシマ、東海物産を紹介 JA全農いばらき2025年7月3日
-
イオンの若手青果担当者が「ぎふ清流GAP」認証トマトの農業体験 JA全農岐阜2025年7月3日