【読書の楽しみ】第14回2017年5月18日
★塚田穂高編著
『徹底検証 日本の右傾化』
(筑摩選書、1944円)
本欄でも取り上げた「日本会議」が一躍、脚光を浴びたこともあり、日本の政治と社会が右傾化しているというのが定説になりつつあります。確かに安倍政権のやったこと、やろうとしていることは中道よりは右に寄っていることは間違いないところでしょう。
本書は右傾化を、社会、政治、教育、家族、言論、宗教という分野をさらに3、4分して計21人の学者、ジャーナリストたちが状況を検証するという編集方針をとっています。
全体の結論を言うと確かに右傾化は進んでいるが、世の中あるいは国民の大半が排外的ナショナリズムなどの形で右傾化したりしているわけではなさそうだ、ということになりそうです。
とはいえ教育と家族においては教育基本法や憲法24条(家族や婚姻、ジェンダー)に直接絡むだけに保守派の標的にされています。9条に比べ国民の関心が薄いことも盲点のようで、その点の本書の指摘は貴重です。
なお自民党の右傾化は世論や支持基盤の変化ではなく、野党の存在と派閥の衰退による根の浅いものという興味深い分析がなされています。外交や防衛、ナショナリズムなどさらなる分析が必要と思いますが、いろいろと考えさせてくれるタイムリーな本です。
★林望
『役に立たない読書』
(インターナショナル新書、777円)
読書は役に立たないと言っているのではありません。役に立つことだけが目的ではいけないというのです。
読書は面白くなければならない。自分の読みたい本を読む。これがリンボウ先生の読書の鉄則だそうです。
確かに、義務でする読書、最後まで読み通さなければいけない読書、記憶することが目標の読書...どれも願い下げですね、私も。面白い本を好きなように読むことが至上の読書だと屈指の読書家に言われて、まことに心強いことでした。
ベストセラーは読むな、本は自分で買って読め(図書館では借りるな)、本は基本的に手放してはいけない、本棚は脳味噌の延長だ、線を引いたり書き込んだりして本を自分のものにせよ、といった主張も興味津々です。
一方で翻訳書や古書をめぐる話題、古典の醍醐味などといった、著者ならではの話題も登場します。電子書籍が日本でははやらないだろうという考察(理由は日本語の特性と装丁など)にも力づけられました。読書好きには楽しめる一冊です。
★松岡譲
『漱石の印税帖』
(文春文庫、745円)
副題「娘婿が見た素顔の文豪」のとおり著者は漱石の長女の夫で漱石山房(漱石の書斎)に芥川龍之介、久米正雄らとともに入り浸った末に、漱石死後、長女に迫られて結婚したのだとか。
生誕150年とあって多くのイベントや出版が企画されていますが、本書もその一環でしょうか。昭和30年に刊行されたものの文庫化ですからほとんどの人にとっては新刊のようなものでしょう。
「漱石の印税帖」「漱石の万年筆」「偽漱石」「漱石の顔」「『明暗』の頃」など10編が収録されており、漱石ファンにとっては極上の随筆集です。
漱石の小説の印税が年次、版元ごとにどういう状況だったかを調べた表題作は特に興味深く、死んでから爆発的に売れ出したとは意外でした。漱石の落款印章の偽物が多数出回ったという話もありますが、さすがに当節はもう下火でしょう。「回想の久米・菊池」も見逃せません(菊池とは菊池寛のこと)。
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