【リレー談話室・JAの現場から】小出監督の人財育成2017年5月19日
◆相手の能力引き出す
女子マラソンの小出義雄監督は世界のトップランナーを育てる名伯楽といわれる。小出は2000年のシドニー五輪で高橋尚子を金メダリストに、その4年前のアトランタ五輪で有森裕子を銅メダリストに、さらにその前のバルセロナ五輪でも有森を銀メダリストに導いている。
もう一人、1997年のアテネ世界陸上選手権で金メダルをとった鈴木博美という選手も育てている。それぞれが日本のスポーツ界の快挙だ。小出は「神様が私にすばらしい選手をさずけてくれた」と偶然を装う。高橋尚子は、小出のもとに押し掛けるようにやってきたという。有森は決して速いランナーではなく、マネージャー候補での採用だったという。
なぜ、高橋たちは小出との出会いをめざしたのか。スポーツ新聞やTV番組などで小出が口にした3人に対する指導法をまとめてみると、次のようだ。
▽鈴木博美 もともと素質のある鈴木とは同じくらいの眼の高さでつき合ってきた。命令してもダメ。「マラソンしてみるか」とか「この大会に出たらいいと思うけど、どう思う」と問いかけて、本人に決めさせる。いったん自分で決めたら頑張る選手です。練習では、トラックのスピードがある鈴木には長い距離は走らせず、練習量も有森より抑えました。
▽有森裕子 有森は自分が納得しないと動かないタイプ。頭からガツンといってもダメです。だから2段ぐらい下がって、彼女を上に立てる。「監督、もっとしっかりしてよ」という感じになれば、有森は気分よく走れる。いつも「有森先生」と言ってました。練習では、典型的なスタミナタイプの有森には定期的に50km走をさせ、苦手なスピード練習はひかえました。
▽高橋尚子 高橋は本当に素直な子。僕のいうことを何でも取り入れます。「高橋、次はこうしよう」と2段ぐらい上からいうと、「ハイ」といって嬉しそうに走る。何をいっても「いやです」とはいえない選手です。練習では、スピードとスタミナをほどよく持ち合わせる高橋には、長くても30kmぐらいで、タイムトライアルを多く取り入れました。
有森は「監督はタイムにこだわらずメニューをこなせ、と指導します。目標タイムも、達成できなければどんどん自信喪失に陥ってしまいます。命令されると反発してしまいます。監督はよく話し合ってくださいました」と語る。
小出のやり方は、職場での上司の部下への支援・指導のあり方を論ずる「コーチング理論」にもあてはまる。それぞれの選手と異なる目線の高さでコミュニケーションする小出の個性に満ちた指導方法が、現代の「コーチング理論」の具体例でもある。高橋も鈴木も有森も異質な個性と走る能力を持つ。そしてそれぞれの心のありようを持っている。馬の目利きをする伯楽、転じて人の能力を見抜く人が名伯楽の意味だが、小出については、「選手の心身の成長を信じ、励まして伴走する」ことで、ごく普通の選手をも気持よく走らせ、ついには一流にしてしまうという名伯楽ぶりなのだ。
小出は農業高校を出たが農家にはならず、箱根駅伝に出たい一心で大学に入った。高校教師となり、千葉県の市立船橋高校などで23年の教師・監督生活を送った。その間にさまざまなタイプの陸上選手を育てあげている。小出監督のもとで陸上に青春を燃やし、若くして亡くなった選手の母親は、自らの娘も慈しむように能力を引き出してもらったと小出に手を合わせる。
陸上部をやめずに頑張っていた鈍足ランナーは、昭和61年の駅伝で最短区間を「死ぬ気で走れ」と諭され、ついに優勝メンバーの一人となれたことを己が生涯の誇りだと声を詰まらせる。社会人となった多くの元選手たちは、壁に突き当たったときに、小出先生ならどうするだろうかと自問するという。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日