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並行して進む4つの通商交渉を制御出来るか?2017年5月25日

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【近藤康男「TPPに反対する人々の運動」世話人】

◆急げば譲歩を避けられず、時間を掛ければ求心力が失われる

 5月20~22日にハノイでTPP11とRCEPの閣僚会合があり、同じハノイで開催されたAPEC閣僚会合ではアジア太平洋自由貿易圏FTAAPの議論があった。その前の16~19日には日欧EPA首席交渉官会合もあった。
 前回のコラムでもTPP11と日米経済対話を中心に、他の協定の交渉内容の水準も交渉の進捗も共にバランスを制御できなければ、安倍首相のよく口にしていた"守るべきは守り、攻めるべきは攻める"という着地は出来ないとの主旨を書いた。そしてその中でも安倍政権にとって重要かつ難しいのはTPP11だろう。

◆制御不能なら、せめてTPP11を諦めたほうがいい

 これも前回コラムの繰り返しだが、RCEPに加えて、発効済みのペルー・チリとのEPA、日米経済対話と日欧EPAを加えれば冒頭の4つの協定を充分カバーできる。カナダとの間のEPAはTPP交渉の間に交渉中断しているだけだ。この枠組みなら日米経済対話と日欧EPAに集中もできる。
 筆者自身はこれら全てに反対だが、安倍首相の立場に立てばこのように言い得るはずだ。石原TPP担当相、世耕経産相には、国際通商交渉に耐えうる見識、経験も無い。並行的な交渉をやり切れるとは思えない。

◆曖昧な共同声明、場外での各国のバラバラの本音、世耕・石原氏はどうする?

 TPP11のA4半分程度の共同声明に対してRCEPは3倍ほどのページだったが、曖昧さでは引けを取っていない。年内の交渉妥結を目標にする、質の高いルールを重視する考えについては「留意する」とだけ書かれ、各国の思惑の違いを示す形となった。TPPを規範として高水準を求める日本など"先進国"、年内に大筋合意をしてルールの議論を先送りしたい議長国フィリピン、加えて中国・インドなど、溝も深い。世耕経産相の提案で、ルールについては、優先順位を付けるべく9月までに争点の絞り込みを進めること、途上国の経済発展の状況に応じて対応する、などの内容を盛り込んだが、合意時期は見通せないままだ。
 TPP11は、次の「共同声明のポイント」(5月22日付け日経)のように"検討"のニュアンスが付いて回っている。
 ・TPPの利益を実現する価値について合意
 ・早期発効に向けて、首席交渉官らが選択肢を検討する
 ・11月のAPEC首脳会議までに検討作業を完了する
 ・米国の復帰を促す方策も検討する
 ・将来は高水準のルールを受け入れる国にも参加を拡大する
 ・保護主義への懸念に応える
 奇怪なのは、"公表しない"との前提で、"TPPの前進に向けた原則"なるものが採択されたとの報道だ。あまりに各国の本音がバラバラであるため、別途、結束維持のために採択したのだろうか? その4原則は、
(1)TPPの機運を維持し、適宜かつ断固として行動する、
(2)高い水準とバランスの取れたTPPを維持し、協定の解体を回避する、
(3)TPPの経済的、戦略的な意義を維持していく、
(4)全署名国による協定発効に向けた促進策を策定、
とある。(5月23日付け時事通信による)
 場外では日本とNZ以外からはそれぞれの思惑が聞こえる。豪州チオボー氏でさえ「医薬品関連は修正したい」、マレーシアのムスタバ氏は「慎重な交渉、再修正を要求」(22日ブルームバーグ紙)、カナダはNAFTA再交渉睨みで国内手続きに慎重、議長国のベトナムでさえ「国内説得の難題」を抱えている。カナダの政府筋は「大半の国が修正を求めている」(5月21日トロンと・サン紙)と語っている。5月24日付のAAP通信では豪州もペルーとの2国間協定を始めようとしている。日本でも山本農相は「見直しが必要」と繰り返す。
※参考:
17.05.21TPP11閣僚共同声明
https://beehive.govt.nz/release/trans-pacific-partnership-tpp-agreement-ministerial-statement
17.05.22時事通信社:閣僚共同声明への附属文書・4原則(全文は非公開)
https://news.infoseek.co.jp/article/170522jijiX558/
17.05.22RCEP閣僚共同声明
http://asean.org/joint-media-statement-third-regional-comprehensive-economic-partnership-rcep-intersessional-ministerial-meeting/

◆米国はTPPを離れることでタダ乗りが出来る?

 忘れてはならないのが、貿易分野は別としてもルール分野では、米国は11ヶ国がTPP11の発効に合わせて国内法を改正すれば、TPPに加わらなくてもいくつかのタダ乗りが出来ることだ。国内法の内容や条約との関係を精査すべきだろうが、著作権や生物製剤新薬データ保護などの知財分野、政府調達などはタダ乗り対象になるのではないだろうか?日米交換文書はTPPと無関係に既に進んでいる。
 海外の専門家の間でも、このタダ乗り議論が出始めている。

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