(033)10億トンと「比較」2017年6月2日
あまりにも桁の大きい数字や小さい数字にはどうも現実感が無い。それでも農業関係者にとっていくつかは覚えておきたい数字がある。その1つが「10億トン」である。これに加え、何と何を比較するかという視点も重要である。
【トウモロコシ】
第1に、これは世界のトウモロコシの合計生産数量である。米国農務省の最新需給見通しによれば、2017/18年度、世界のトウモロコシの生産数量は10億3367万トンだが、一般的には10億トンで十分である。トウモロコシは今や10億トンビジネスという事だ。
トウモロコシを中心とする穀物は粗粒穀物(Coarse Grains)と呼ばれる。粗粒穀物にはトウモロコシ以外に、ソルガム(コウリャン)、大麦、ライ麦、燕麦などが含まれる。粗粒穀物の生産量合計が約13億トンであり、トウモロコシは粗粒穀物全体の約8割を占めている。
トウモロコシの生産量を国別に見ると、1位が米国で約3.6億トン、2位が中国で2.2億トンと、この両国で6割弱を占める。3位のブラジルは9600万トンであり、近い将来1億トンの大台に達する可能性が高い。4位がEUで6350万トン、5位がアルゼンチンの4000万トンである。
なお、小麦、コメ、粗粒穀物、主要な油糧種子の生産量合計が約30億トンであることを考えれば、トウモロコシはこれらの総合計の約3分の1を占め、世界の穀物生産の中で大きなウエイトを占めていることがわかる。
【配合飼料】
第2に、米国のAlltech社の調査によれば、2016年の世界の配合飼料生産量は10億3220万トンである。こちらも10億トンが鍵となる。現在、世界中には約3万の飼料工場があり、その合計生産量ということだ。ちなみに、世界で最も配合飼料工場が多い国は中国であり、その数は6000、米国の5970に匹敵するが、中国では近年、統廃合が急速に進展し、飼料工場数は前年から約30%減少したようである。逆算すれば1年間に約2500工場が消滅したことになる。この動きも凄い。
配合飼料の生産量だけで考えれば、1位は中国の1.87億トン、2位は米国の1.70億トン、3位はブラジルの6890万トン、4位はメキシコの3388万トン、5位がスペインの3185万トンと続き、日本はインド、ロシア、ドイツに次ぐ9位ということになる。
【比較】
ところで、この調査では日本の飼料工場数を115、配合飼料生産数量を2399万トンとしている。生産数量がドイツやフランスとほとんど変わらないにもかかわらず、工場数が3分の1ということは、それだけ効率化されているということに他ならない。
ここで思い出すのは昨年秋に生産資材価格の低下という議論がヒートアップした際、特定一か国(韓国)の同業種との比較のみ(・・)で議論が行われたことである。
議論の過程ではドイツやフランスどころか、世界各国との比較などは全く表に出てきていない。そもそも調べていたかどうかも不明である。良い機会なので、生産量上位10か国の飼料工場数、配合飼料生産量、そして1工場当たりの生産量を一覧表にし、そこに昨年秋に出された数字を追加してみた。2か国の比較だけでは見えない、国際社会の中でのわが国の配合飼料産業の状況がよく見えてくる。
これは、比較というものは何と何を比較するかにより、印象が大きく変わるということの典型例である。我が国における飼料銘柄数の集約はもちろん重要であるが、それは各地域の歴史と伝統に根差した繁殖・育成・肥育の技術を持つ畜産農家への個別リクエストに応えた結果でもあり、同時にそれこそが、例えば、世界最高級ブランドの「和牛」を各地で作ってきたということを踏まえる必要がある。
比較対象国の畜産が全てにおいて世界のモデルとすべき内容を備えているのであれば、それはベンチマークとなり得るが、そうでなければこうした一面的な比較は全く意味のない数字の遊びに過ぎなくない。場合によってはわが国の畜産をコモディティ食肉の生産という見当違いの方向に導く可能性があることを理解しておくべきである。
重要な記事
最新の記事
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(2)今後を見据えた農協の取り組み 営農黒字化シフトへ2025年1月23日
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(3)水田に土砂、生活困惑2025年1月23日
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(4)自給運動は農協運動2025年1月23日
-
人づくりはトップ先頭に 第5次全国運動がキックオフ 150JAから500人参加【全中・JA人づくりトップセミナー】(1)2025年1月23日
-
人づくりはトップ先頭に 第5次全国運動がキックオフ 150JAから500人参加【全中・JA人づくりトップセミナー】(2)2025年1月23日
-
人づくりはトップ先頭に 第5次全国運動がキックオフ 150JAから500人参加【全中・JA人づくりトップセミナー】(3)2025年1月23日
-
元気な地域をみんなの力で 第70回JA全国女性大会2025年1月23日
-
【JA女性組織活動体験発表】(1)新しい仲間との出会い 次世代へつなげるバトン 青森県 JA八戸女性部 坂本順子さん2025年1月23日
-
【JA女性組織活動体験発表】(2)この地域を、次世代に繋ぐ、私たち 山梨県 JA南アルプス市女性部 保坂美紀子さん2025年1月23日
-
【JA女性組織活動体験発表】(3)私たちの力で地域をささえ愛 愛知県 JA愛知東女性部 小山彩さん2025年1月23日
-
旧正月【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第325回2025年1月23日
-
地元産米を毎月お届け 「お米サポート」スタート JAいずみの2025年1月23日
-
定着するか賃金引上げ 2025春闘スタート 鍵は価格転嫁2025年1月23日
-
鳥インフル 米アイオワ州など5州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月23日
-
鳥インフル 英シュロップシャー州、クルイド州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月23日
-
スーパー売り上げ、過去最高 野菜・米の価格影響 「米不足再来」への懸念も2025年1月23日
-
福島県産「あんぽ柿」都内レストランでオリジナルメニュー 24日から提供 JA全農福島2025年1月23日
-
主要病虫害に強い緑茶用新品種「かなえまる」標準作業手順書を公開 農研機構2025年1月23日
-
次世代シーケンサー用いた外来DNA検出法解析ツール「GenEditScan」公開 農研機構2025年1月23日
-
りんご栽培と農業の未来を考える「2025いいづなリンゴフォーラム」開催 長野県飯綱町2025年1月23日