他国と比べても著しい知る権利・民主主義の劣化2017年6月8日
6月7日、東京地裁103号法廷で「TPP交渉差し止め・違憲訴訟」請求が全面的に却下された。想定される国民の様々な権利が侵されることへの予防的措置の必要性、知る権利についても全て棄却された。TPPでの情報公開要求への政府の対応を見る思いだ。
現在日本政府は、TPP―11、日欧EPA、RCEP、そして日米経済対話と4件の主要な通商交渉案件を抱えている。6月にはロス-世耕個別分野協議、中旬に日欧EPA首席交渉官会合、7月11日からは箱根TPP―11首席交渉官会合、7月17~28日インドRCEP第19回会合と目白押しだ。日欧EPAは7月G20会合並行の首脳会談で政治的大枠合意という報道(6月1日農業新聞)もあり、TPP―11も11月APEC首脳会議並行会合での大筋合意を目指している
しかし、今の日本では、交渉経過・内容についての情報開示は零に等しい。知る権利は全く無視されている。しかし各国ではどうか?
◆インドでのRCEP19回会合では市民参加の説明会も開催
TPP―11の首席交渉官会合は7月11日から開催される。それ以上の事は、全く明らかにされていない。
インドでのRCEP19回会合はTPP―11より遅い7月24日から実際の交渉が始まり、28日までハイデラバードで開催されることがかなり前に開示されている。そして25日か26日には、市民向けの説明会がハイデラバ-ドで行われる予定だ。
TPP―11についてこのような情報は全く提供されていない。TPPの閣僚会合で毎回現地入りしていた海外の市民団体も、箱根に行くべきか、行かざるべきか決めかねている。
◆それでは日欧EPAでの欧州委員会はどうか?
昨年9月、本年4月の日欧EPA交渉の報告を欧州委員会のウェブサイトでは英文で4ページ、主な分野毎に、簡単ではあるものの、争点・課題などが明らかにされている。4月の交渉会合では物品貿易の一般的規則、非関税措置(食品の安全性関連、自動車関連の基準など)、原産地規則、サービス貿易、公共調達、地理的表示を含む知的財産権保護、規制に係る協力、等について報告されている。
日本は相変わらず箇条書き4行!?だ。加えてEUでは5月29日、マルムストローム通商担当委員等が出席して、日欧EPAを含むEUの貿易政策について市民団体との対話集会が開催されている。
◆体験から:市民との距離が遠い日本の交渉陣
TPPが合意されるまでの閣僚会合のほとんどの現地に実際に行き、海外の市民団体と現地での集会やメディア対応をしてきた。
そこでの風景はこんな感じだ。日本の交渉官は隊列を作って真っ直ぐ前を見て急ぎ足で会場に向かう。私たちは首席交渉官以外の顔も知らない。他の国は小グループで会場入り。某国の首席交渉官などは自国の市民団体に手を挙げ、笑いながら近づいて言葉を交わしている。ひょんなことから日本人の私と一緒にタクシー相乗りで会場入りした某国交渉官までいた。日米の市民団体の斡旋で日本の野党議員との意見交換に応じた首席交渉官もいた。
別の会合では、主催国の市民団体が日本の知財担当官を意見交換の食事会に招待しようとしたが、交渉団とは連絡のとりようも無かった。
極めつけはメールアドレスだ。私たちは大半のTPP参加国の交渉官の氏名とメールアドレス一覧表を共有していたが、日本だけは、最後まで氏名の一部と2名のアドレスだけで空欄が大半だった。
◆情報開示に伴う手間は民主主義のコストと心得るべき
私たちが情報開示を求める度に、「通商交渉では交渉内容を明らかにしないのは当然」といった言葉が国会議員にも返ってくる。しかし相手国の提案や発言はともかく、日本側の提案や発言は交渉相手国には伝わっており、知らないのは日本の国民だけだ。勿論その提案も今後の交渉過程での取引材料として使われることもあるだろう。
しかし、自国の国民に知られて困ることは何だろう? 交渉内容に批判の声が強まり交渉がやり難くなる、簡単に妥協し難くなる、あるいは妥協しつつ他の分野での交渉の取引材料とすることが難しくなるかもしれない。
交渉官がやり難くなることもあるだろう。しかしそれは民主主義のコストと考えるべきだ。交渉は交渉官のものではなく国民のものであり、監視するのは民主主義において必要な国民の権利だ。
(写真)口頭弁論の開催時には東京地裁前で集会を開いてきた。TPP交渉差止・違憲訴訟の会。
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