【読書の楽しみ】第15回2017年6月15日
★牧野愛博
『ルポ 絶望の韓国』
(文春新書、993円)
嫌韓本や反韓本があふれかえっています(嫌中、反中も)。他国の悪口はカネを出してでも聞きたいのが「悪い」ナショナリズムですが、昨今の日本はちょっと度を越していると思いませんか。
書名の印象とは異なり著者は韓国嫌いではありません。朝日新聞ソウル支局長として冷静に韓国と韓国人を観察して報告していて嫌韓でも「甘」韓でもないけれど、韓国と韓国人には極めて厳しい内容となっています。
政治、歴史、経済、教育、社会、軍事、外交の7章はどれも内容たっぷりで読み応え十分です。しかもエピソードや具体的事実が満載で、「へぇ」とか「本当か」と思ってしまう話が次から次へと出てきます。さすが新聞記者の取材力です。
たとえば「圧縮成長」した国なので賄賂やコネなど社会不正がまかり通るのだと語る元議員の話、激烈な学歴競争社会ならではの異常な親子関係、血縁・地縁・人脈社会が支配する政治と経済の深刻な実態など、つい「...らしいよ」と他人に言ってみたくなりそうな話にあふれています。
本書に示された韓国の真実を理解した上で日韓の友好関係が築かれることを期待したいし、それは政官のみならず庶民レベルの関係でも言えることだと強く感じました。
★鈴木荘一
『明治維新の正体』
(毎日ワンズ、1620円)
幕末から明治維新という時代について、従来の定説に真っ向から反対の見方を提示したユニークな本です。
この時代について私たちは薩長史観による歴史を学校で学びました。江戸時代は停滞した鎖国下の封建社会であり、列強のおかげで太平の眠りからようやく覚めたのだ、と。そして薩長土肥の志士たちこそ歴史を切り開いた英雄だということで高杉晋作、坂本龍馬、西郷隆盛たちが称賛されてきたわけです。
著者はこれとまるで反対の歴史を展開していきます。たとえば鳥羽の戦いの後、大坂から江戸へ逃げ帰った徳川慶喜は愚君だったというのは事実に反し最高の政治家だった、江戸開府の立役者とされる西郷隆盛や大久保利通は島津家の財産や兵士を簒奪し島津久光を裏切ったのだ、などという興味深い話が次々に登場します。
江戸時代の再評価も重要な課題であり、今の日本を考える上で江戸期、明治期を正しく把握することは大事です。意外性に満ちた歴史書として一読の価値があります。
★玉手義朗(文)、増田彰久(写真)
『見に行ける 西洋建築歴史さんぽ』
(世界文化社、1836円)
日本各地には西洋建築の傑作が今なおたくさん残されています。本書はそれらの歴史的意味、建築学上の重要性、施主の紹介やエピソードなどをたっぷり盛り込んだ、簡にして要を得た文章によって紹介していきます。
旧グラバー住宅(長崎)から、旧岩崎家住宅(東京)、日光金谷ホテル、山口県旧県庁舎、起雲閣(熱海)など、北海道から鹿児島までの34の建物はバラエティに富んでみな個性的です。中には外観は和風なのにというのもありますが、これは構造が洋風なのだとか。
さらに、文章もさることながら写真がまた素晴らしい。立体感や光の具合、細部の鮮明さや臨場感も見事で空の様子一つとっても撮影は大変だったろうなと感心するばかり。量もたっぷりです。
見学できる建物ばかりなのも何よりで、優れた文と写真で旅した気分になる割安な(よくぞこの価格)の仮想の旅も良し、本書を手掛かりに現地を訪ねるのも楽しいでしょう。
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