【小松泰信・地方の眼力】完敗安倍農政の悪あがき2017年6月21日
内閣支持率軒並み大幅低下を受け、殊勝な顔で反省の弁をたれても、理解も納得も、もちろん期待もしない。なぜなら安倍晋三らのこの間の所業から、その性根が変わりようのないことは明白だからだ。側近中の側近と呼ばれて張り切るすっとぼけ萩生田光一に関わる新文書が、こともあろうにNHKの「クローズアップ現代+」のスクープとなった。もちろん本人は聞き飽きた全否定の弁。記憶力も乏しく、文書管理もできない連中に、この国の行方を決めさせるわけにはいかない。
◆安倍農政はすでに完敗
さて、内閣支持率より一足早く、安倍農政の支持率も危険水域にある。
日本農業新聞(5月30日)は、同紙購読の専業農家を対象に行った、JAグループの自己改革に関するアンケート調査結果を掲載した(専業農家1605人に郵送法で4月中旬から下旬実施。回答率70.5%)。
「安倍内閣の農業政策を評価しますか」という問いに、「大いに評価する」が2.1%、「どちらかといえば評価する」が19.1%、「どちらかといえば評価しない」が39.4%、「全く評価しない」が28.3%、「分からない」が11.0%。大別すれば、「評価する」のが2割、「評価しない」のが7割。専業農家にここまで評価されない安倍農政は完敗。
「あなたがJAグループの自己改革で、特に期待する取り組みを三つ選んでください」という問いに対して、一番多いのが、「生産資材(肥料、農薬、農機など)の価格引き下げ」の27.7%。これに「生産コスト削減や省力化などの営農技術指導の強化」の17.0%が続いている。そのもっとも期待されている購買事業に関して、「購買事業の改革への期待度について、どう考えますか」という問いに対しては、「これまでも良くやっていると思うが、さらなる改革を期待したい」が52.1%、「現在の内容が不十分であり、今後見直してほしい」が39.4%、「期待していない」は6.2%。改善の余地は少なくないものの、期待度は高く、決して全否定される状況にはないことがわかる。
◆〝農業参入甘くない〟って、日経でも言うわけ!?
日本経済新聞(6月17日)は、〝農業参入甘くない 吉野家、神奈川で撤退〟という見出しで、吉野家ホールディングスが2009年に設立した吉野家ファーム神奈川(横浜市)を畳み、農業事業を縮小することを伝えている。神奈川と山梨で借りていた合計約9haの農地は、3月末までに地主に返し、横浜市の事務所も6月いっぱいで返却するとのこと。
事業継続を諦めた一因として、「農地が分散していて経営効率が低かった」ことをあげている。これに、売り上げ増をねらった規模拡大が効率向上の足かせになった、とのこと。また、ピーク時に30種類もの野菜を作っていたが、グループ企業の品質基準を満たして出荷できたのはわずかで、栽培技術を高めることができなかった。山梨で借りた水田も、2年目は収量増だったが、目標未達。神奈川にあわせて、ここも畳むことにした。
吉野家の撤退に加えて、「オムロンはオランダから最先端の栽培施設を輸入してトマトの生産を始めたが、約3年で撤退」、「ニチレイは野菜の貯蔵と加工を手がける6次化事業に参入し、16年3月に撤退」、「東芝も16年末に植物工場を閉鎖」など、撤退事例を紹介している。
それらから、「多くのケースで共通なのは、本業のノウハウを生かそうとして参入し、農業の収益性の低さに直面して黒字化に見切りをつける戦略の『甘さ』だ」と、厳しい指摘。さらに、「制度以前の問題。事業を拡大できるビジネスかどうかの判断が十分ではなかった」という当事者の説明を受け、「規制が企業の農業ビジネスの障壁になっているわけでもない」と、およそ日経らしからぬ書きぶりには戸惑いを禁じ得ないが、当コラムとしては納得の展開。最後は、「農業に参入する企業も農業の収益性の低さを踏まえたうえで、競争に打ち勝つ新たな戦略が必要になっている」と、同紙らしい締め。
◆拙速な卸売市場改革の予兆
日本農業新聞(19日)は、〝担い手 市場を重視 農水省農家調査 最大出荷先は農協〟という見出しで、農水省が2015年に、国内のすべての家族経営の販売農家を対象に行った調査結果を紹介している。
最大の販売先についての回答を販売金額規模別で集計し、すべての規模で「農協」をあげる割合が最も多かったことを示している。1億円未満では65%から72%。1億円以上5億円未満が50%前後。5億円以上でも44%。これらより、「農協が農家の農産物販売を支えていることが明らかになった」としている。また、販売金額3億円以上では、農協に次いで「卸売市場」が20%を超えていることから、「大規模農家にとって、大量の農産物の売り先確保は大きな課題だが、卸売市場が重要な受け皿になっている」とする。他方、小売業者や食品製造業・外食産業が数%にとどまっていることから、実需者への直接販売の伸び悩みを指摘している。
このような分析に基づき、政府や規制改革推進会議における卸売市場法の抜本的な見直しの動きに対して、「いたずらに機能を弱体化させ、担い手の経営に水を差すことがないよう、丁寧な議論が欠かせない」と、釘を刺している。
ところが、本日(21日)の同紙一面で〝政府 市場法の廃止検討 受託拒否なら産地混乱〟の大見出しで、政府が市場法の規制を抜本的に自由化し、市場関係者の競争を促す考えであることを伝えている。焦点の一つが〝受託拒否禁止規定〟。政府内に「JAに市場への丸投げを許し、高値販売の努力を阻害している」ので廃止、といった声があるとのこと。規制の趣旨は、〝生産者に安定的な販路を提供するとともに、卸売業者の恣意的需給操作(入荷制限)を排除し、適切な価格形成をはかる〟ことにある。
「規制は悪、自由競争は善」という岩盤思考で破壊すべきものではない。安倍農政の悪あがきでしかない。嫌なニュースは重なる。同紙は、奥原農水事務次官の留任が有力であることも伝えている。暗澹たる思い。悪くはなっても良くなることはない。
◆「牛窓+(プラス)」が小声で語るここだけ話
日本経済新聞(15日)は、〝JA、農業生産法人に歩み寄り 資材価格下げで連携 対メーカーで交渉力強める〟という見出しの記事で、「全農は今後、約400の肥料銘柄を10程度に絞り込み、ジェネリック農薬の普及をめざす」ことを紹介している。
肥料銘柄の絞り込みによるコスト削減というシナリオが、生産現場の目指している方向を必ずしも反映していないことを、日本農業新聞(5月30日中国版)の〝「牛窓+」 独自開発肥料 講習会で紹介〟という記事がそっと教えている。JA岡山瀬戸内営農センターが開いた夏野菜講習会で、生産者に牛窓地区に合わせて開発した肥料「牛窓+(プラス)」を紹介し、参加した生産者は既存のコーティング肥料との溶け方の違いを確認したそうである。同営農センター長は「栽培も出荷も、JA・生産部会が手を取り合って〝オール牛窓〟で取り組みたい。講習会もその取り組みの一つ」と、語っている。
全国各地に多数存在するこのような小規模産地の、より良き農産物づくりをめざす姿勢こそ尊く、大切に守っていくべきものである。お久しぶりだな進次郞、わかるか、わかんねぇだろうな。
「地方の眼力」なめんなよ
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