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(037)グローバル化のパラドックスと秘書2017年6月30日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 グローバル化のパラドックスについては、既に何冊もの書籍が出ているためご存じの方も多いであろう。代表的なものはダニ・ロドリックが書いた『グローバリゼーション・パラドックス』であり、既に日本語を含めて世界各国で翻訳出版されている。
 世界の将来を見る上で、経済面でのグローバル化、国家の主権、そして民主主義、という3つは、いずれも重要だが、同時に達成することはほぼ不可能、どれかを犠牲にせざるを得ない…
 そこに我々が直面する大問題があり、ロドリックはその中で犠牲にするものとしては、経済面でのグローバル化ではないかという主張を展開している。これに賛成する人も反対する人もいるだろうが、内容は興味深い。

 さて、我々の日常生活でも様々なレベルでグローバル化とローカル化が進行している。今や中学生でもSNSを通じて瞬間的に世界各地とつながることが出来る。検索エンジンとしてのGoogleが無い時代にいかにして我々は新たな知識を獲得していたかもわからなくなるほど、インターネットは生活の基礎インフラとしての地位を確立している。
 食生活を見れば、人々は旅行やハレの日などでは地域の伝統料理だけでなく、世界中の美味しくて珍しい食べ物を好む。食のグローバル化は、食品原材料の調達や流通から食卓にまで及んでいる。いつでもどこでも、世界中の美味しい食べ物が簡単に食べられる時代が概ね実現している。今や日本のショッピング・モール内のフードコートは良くも悪くもグローバル化の見本市かもしれない。
 その一方、「地産地消」、「生産者の顔の見える食べ物」、「ローカル・フード」など、地域や地元を中心とした視点が注目されており、生活の局面ごとにグローバル化とローカル化が至る所で混在している。グローバル化の賛成論者が地域限定商品を愛好し、反対論者がグローバルな調達網が無ければ提供できないようなブランドの衣類を身に付けているなど、恐らく「原理主義者」には悩ましいことこの上なく、グローバル化のパラドックスの一例としても興味深い。

  ※  ※  ※

 これは、内と外の境界線が曖昧になることでもある。筆者は大学の教員という職業柄、様々な外部の仕事の機会があるが、勤務先大学における仕事が「主」、外部の仕事は「副」(筆者の大学では兼業という)という位置づけの中で実施している。
 従って、同一日時に2つの仕事が重なる場合には「主」たる業務を優先せざるを得ず、「副」業は「主」たる業務に影響を及ぼさない範囲内で勤務先に許可を得た上で実施している。多くの場合はこれに近い形で「主」と「副」を分けて仕事をしていると想像するが、これとて伝統的規範に縛られたものかもしれない。実際、知識の共有や仕事のチームが所属組織を超えたレベルになると、内と外の境界は益々曖昧なものになる。

  ※  ※  ※

 ところで、こうした形での仕事量の増加に対し、筆者は少し前まで本当に「秘書」が欲しいと思っていた。仕事そのものに付随する手続きや「調整」を補助してくれる「秘書」は極めて有難いと...。実際、一昔前なら有能な秘書を抱えるだけで仕事の効率が格段に上昇したに違いない。
 ところが、最近はほぼ全ての関連業務を24時間オンラインで出来るようになり、筆者の仕事では、仮に今、秘書がいても頼むことが何も無いような状況になりつつある。
 優秀な秘書になればなるほど単純な手続きばかりをお願いは出来ないであろうから、結局自分でするというのも一種のパラドックスかもしれない。

 

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

三石誠司・宮城大学教授の【グローバルとローカル:世界は今】

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