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(040)戸数の幻想と養鶏の現実2017年7月21日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 農林水産省の資料によれば、半世紀前の昭和40(1965)年、日本には採卵鶏の飼養戸数は約323万戸であった。高度経済成長下のこの当時、養鶏農家1戸当たり飼養羽数は33羽である。これでもその5年前、昭和35年の384万戸、1戸当たり飼養羽数12羽から見れば極めて大きな変化であったと考えられる。わずか5年間で養鶏農家が60万戸以上減少した中で、1戸当たり飼養羽数は3倍に増加しているからだ。

 昭和63(1988)年には、飼養戸数は10万2100戸と、まだ10万戸を上回っていたが、その後は一気に減少し、平成28(2016)年には2440戸、今年は2350戸(概算)と見込まれている。筆者は昭和59年に当時の全農に入会したが、この当時、10万戸を切りそうだという危機感を昨日のことのように覚えている。
 さて、鶏卵はその性質上、国内生産が大半を占めている。食料需給表の2015年の数字を見ると、国内生産量252万トン(県別上位生産は、茨城8%、千葉7%、鹿児島7%)、輸入が11.4万トンと、国内需要に占める輸入の割合は4%程度に過ぎない。そして輸入している鶏卵も基本的には卵黄ではなく卵白粉が大半を占めている。
 言い換えれば、現代日本においては、約2400戸の採卵鶏農家が日本の96%の鶏卵を担っていることになる。ただし、ここから先は統計を読むに当たり、少し慎重になる必要がある。我々はどうしても約2400戸を同じような規模の農家という目で見てしまうが、現実は大きく異なる。
 例えば、内訳を組織別に見れば、農家と農家以外(会社・その他)が概ね半々である。
 また、飼養羽数という別の尺度で見れば、平成28年2月1日時点の総羽数1億3452万羽のうち、農家が1357万羽(10%)、農家以外(会社等)が1億2095万羽(90%)、ということがわかる。飼養羽数が1000~4999羽以下の農家から10万羽以上の大規模養鶏農家(企業)までを全て一緒に捉えると現実を見誤る。これには十分な注意が必要だ。
 さらに言えば、「10万羽以上」という分類も微妙である。近年では1社で数百万羽、これを数十万羽単位の複数の養鶏場で育てている企業養鶏も珍しくない。これらの詳細については個別の企業の公表データから見るか、足で確認するしかないのが現状である。

  ※  ※  ※

 話は全く変わるが、2016年春にメガバンク大手3社に入社した新卒は、各々1920名、1800名、1300名で合計5000名を超える。約30年前に筆者が就職活動をした昭和の終わりですら、既にエレクトロニック・バンキングという言葉(当時はオンライン・バンキングとは言われていなかったような気がする)が氾濫していた。既にそれから30年以上が過ぎている。
 最大手の養鶏企業の従業員数(派遣やパートも含む)は恐らく数百人規模になるであろう。また、最新の科学技術を用いた温湿度や疾病管理など、庭先養鶏とは言わないまでも伝統的な養鶏とはオペレーション自体が根本的に異なる。生産から出荷に至るまで非常に高度な経営管理のスキルと、恐らくは必要なシステムを動かす高度で莫大な投資が求められることは容易に想像できる。そして、是非を云々する前に、我々の多くは既にこの仕組みに依存した上で日々、新鮮な鶏卵を食べる生活を送っている。
 7月も下旬になり、大学の前期授業も残りわずかとなってきた。司馬遼太郎の著作のタイトルではないが、「この国の養鶏の形」に思いをめぐらすには良い季節になってきたかもしれない。

 

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三石誠司・宮城大学教授の【グローバルとローカル:世界は今】

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