【読書の楽しみ】第17回2017年8月12日
◎鳩山友紀夫
『脱 大日本主義』
(平凡社新書、864円)
著者は鳩山由紀夫・元首相です。氏名表記を変えたのですが、それは鳩山さんと祖父の一郎氏の信奉する「友愛」の精神と関係しているのでしょう。
本書は「友愛」の理念を提唱したクーデンホフ・カレルギーの言葉、「人間は目的であって手段ではない、国家は手段であって目的ではない」から始まります。まさに国家と人間の関係が問われるような政治が進行している今、本書を一読されて頭を整理されることをお勧めします。
「大日本主義の幻想」「対米従属からの脱却」「成長戦略から成熟戦略へ」「脱 大日本主義へ」という章立ても見事で、いずれも過不足ありません。
今、日本はどんな国を目指すべきなのか、アメリカに物が言えずいまだに不平等な関係に甘んじる国家とは、沖縄より尖閣のことを心配する国家とは、成長戦略より格差対策のほうが大事ではないかなどとても良い論点が多々あります。
本書は「中」日本こそこの国の目指すべき道だという。説得力十分で、かつ刺激的な本です。言うことは強いが、著者の自制的な姿勢はとても好感が持てます。石橋湛山が戦前戦中に唱えた「小日本主義」の考え方に通底するところも多く、我が意を得たり、と思いつつ読みました。
◎古賀茂明
『日本中枢の狂謀』
(講談社、1836円)
書名に劣らず内容もとても過激です。安倍政権だけでなく野党も含む政界および官界、産業界、労働界、メディアの現状に対して容赦ない批判が浴びせられ、ここまで言うかと思ってしまうこと再三です。
まずやり玉に上がるのは著者が降板することになった「報道ステーション」の内幕で、官邸、テレ朝首脳、古舘伊知郎の密約の追及は強烈です。同番組をよく見てきた人にとってはこの部分だけでも一読の価値があると言ってよいでしょう。
新聞、テレビ批判も多面的に展開されます(そこまでひどいのかと思う人も少なくないはず)。著者が最も力説しているのは原発をめぐる闇で、原発マフィアが何をしてきたか、何をしようとしているか糾弾されます。
野党についても厳しい論が展開されており改めて知る事実、物事の見方、など教えられることが多いことは確かです。著者の意見にすべて賛成するわけではないにせよ、政治や経済の現実を本書によりまず疑ってみることは大事でしょう。
◎マルタ・ザラスカ
『人類はなぜ肉食をやめられないのか』
(インターシフト、2376円)
著者はベジタリアンですが、肉食を忌避しているわけではありません。それどころか肉食の魅力を歴史的、科学的、社会的にたっぷり伝えてくれます。なぜこんなに肉はおいしいのか、なぜこんなに好まれてきたのか、といったふうに。
読んでますます肉を食べたくなる人も多いでしょう。もっとも肉食の医学的、環境的、経済的な問題点もるる説明してくれるので、どちらにくみするかは読者の自由です。
ただし、途上国の肉消費が今後、急激に増えていくことは必至なだけに、全地球的・環境的に肉の需給が限界に達することだけは誰も否定できないでしょう。著者は肉なしデーを設けるとか、肉料理と材料の廃棄を減らすとか、肉もどき(小麦グルテンなど)を開発するとか、の提案をしています。
肉大好きの人も、肉を少し減らそうとしている人も、ベジタリアンも、それぞれに勉強になり、それなりに楽しめる本です。
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