【小松泰信・地方の眼力】AアラートとJAの態勢2017年9月20日
危機感をあおりまくるJアラートになぞらえて、「アベ砲発射、アベ砲発射。安倍総理大臣が臨時国会での冒頭解散を決断した模様です」をAアラートと命名し、「保身のための解散砲。国民に避難を促すJアラートよりタチが悪い」と切り捨てるのは、文芸評論家の斎藤美奈子氏(東京新聞9月20日「本音のコラム」)。イーネッ!
◆地方紙の多くは評価せず
Aアラートを9月18日に取り上げていた地方紙社説の見出しは、「政治空白あってはならない」(河北新報)、「『大義』は何か、国民に示せ」(福井新聞)、「懸案うやむやにするな」(中国新聞)、「国民の理解は得られるか」(徳島新聞)、「首相の解散権に縛りを」(沖縄タイムス)。翌19日は、「誰のための解散なのか」(北海道新聞)、「党利党略が過ぎないか」(茨城新聞)、「『党利党略』批判免れず」(東奥日報)、「身勝手さだけが目に付く」(新潟日報)、「大義はどこにあるのか」(京都新聞)、「大義なき『自己都合』容認し難い」(愛媛新聞)、「党利党略が過ぎないか」(佐賀新聞)、「大義はどこにあるのか」(南日本新聞)。
これらを見るだけでも、地方紙がこの解散を好意的には評価していないことが分かる。
◆大義なき解散権の乱用は無効
北海道新聞(19日)は「...政治空白を生んでまで国民に信を問うべき解散の大義は見当たらない。代わりに何が透けて見えるか」として、解散の意図するところを、(1)北朝鮮情勢の長期化で解散の時機を失したくないという思惑、(2)民進党が迷走し、かつ新党の準備が整わないうちに戦いたい打算、(3)臨時国会での論戦を回避し、加計、森友、両学園問題や陸上自衛隊の日報隠蔽問題にふたをしてしまおうという姑息な計算、の三点に整理する。そして、「首相にとっては得策でも、国民のための選択と言えるのだろうか」との疑問を投げかけ、「『身勝手解散』とみられても仕方あるまい」「国民に問うべき明確な争点が示せないまま踏み切るなら、解散権の乱用」と手厳しい。
沖縄タイムス(18日)は、この〝解散権の乱用〟を「身勝手の極み」とし、解散権について論じている。「ドイツや英国では憲法などで首相が自由に議会を解散できることを縛る規定がある。首相が自由に議会を解散できるという考えは説得力を失いつつあるのが先進国の潮流」とする。さらに、「内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は、不当である」(芦部信喜『憲法』)、「必然性が全然ないのに政権党の党利党略で解散するなどのことは許されない」(浦辺法穂『憲法学教室』)という憲法学界の通説から、党利党略に基づくこの解散は認められない、とする。
◆宿願は成就いたしません
「なぜ今、このタイミングなのか。山積する課題をうやむやにしようとする暴挙に強く異を唱えたい」とするのが愛媛新聞(19日)である。「選挙に勝って『信を得た』と主張し、自身が描いたシナリオを実現する狙いがあるのは想像に難くない。その先にあるのは首相が宿願とする改憲だ。...もはや改憲が自己目的化している」ものの「国民的な議論は全く熟しているとはいえない」と、ズバリの指摘。「自ら危機をあおりながら、選挙に多くの時間を費やすなら本気度を疑われよう」とは痛快。「仕事人内閣」に関しては、「やるべき仕事や責任を放り出す自己都合の解散に、国民の理解は到底得られない」と止めを刺す。
◆産経新聞vs.毎日新聞
全国5紙社説の中で、Aアラートを最も好意的に伝えているのが産経新聞である。「どの政党、どのリーダーに、日本の命運や国民の生命と安全を託すべきか、目の前の脅威に対処しつつ、民意を問う意義は大きい。各党はその答えを国民に示し、論じ合う好機としてほしい」とする。北朝鮮問題に対しては「外交努力の重要性を強調するのも、北朝鮮との対話が困難な状態では、抽象論の域を越えない」とし、「自衛隊が自信を持ち、その能力を発揮するうえで、国民の理解と支持は極めて重要だ」と、好戦論でせまる。「この機会に、防衛の根幹を左右してきた憲法9条などの改正をめぐる議論も必要だ。...『加憲』案を、逃げずに論じるべきだ」と念を押す。「北朝鮮情勢を理由に総選挙を躊躇すれば相手の脅しに屈し、日本の民主主義がゆがめられる」とのこと。しかし、わが国の民主主義を蹂躙し、歪め続けているのは安倍晋三ですから。ザンネ~~ン!
「主権者たる国民への畏れなど、みじんも感じられない政治がまかり通ろうとしている」と、最も厳しい言葉で批判を展開するのは毎日新聞である。「...今、選挙をした方が自民党はそんなに議席を減らさないだろうという首相の打算以外に考えられない。...さらに首相の魂胆が透けて見えるのは、首相の所信表明演説や各党代表質問も行わずに解散する案が検討されていることだ。...よほど疑惑を隠しておきたいからだろう。首相がそれでこの問題は忘れ去られると考えているのなら国民はなめられたものだ」とくれば、「国民なめんなよ」と合いの手を一つ。そして、内閣支持率の回復は、「北朝鮮問題という対外的な危機感が現内閣への期待を生んでいるからに過ぎない。首相の努力の結果ではない」と断じ、「冒頭解散は国民不在の選択である」と斬る。
◆JAグループは私利私略への共犯者となるなかれ
日本農業新聞(19日)も否定的立場にあることを〝疑念を封印 大義見えぬ〟という見出しが伝えている。注目すべきは、解散判断の根拠の一つに「...民進党の体たらくに付け込んで、野党の選挙協力を封印したいとの思惑」をあげている.そのことから「...野党連携や共産党との選挙協力体制をつくれるかが最大の仕事になる」と、前原民進党代表が担わねばならない大きな責任の一つを指摘している。氏は、日本共産党との連携に極めて消極的であるが、民進党にそのようなことがいえる力はない。自らの置かれた状況と国民が置かれた状況を冷静に見詰めれば、野党四党の連携に大きく前進するしか道はない。
さらに同紙は「総選挙は農業者にとって『官邸農政』への審判の機会になる。農村票の動向は今後の政界地図に大きな影響を与える」と、農業者とJAグループのAアラートへの対応が、今後の農政はもとより国政の鍵を握っていることを示唆している。この責任にJAグループはどのような態勢で臨むべきか。皮肉なことに「仕事人内閣」とほぼ同時期に誕生した中家新体制は、早速難題を突きつけられることになる。
JA全中が6月22日に開いた所信説明会で、携帯電話に首相から都議会議員選挙に関する協力依頼の電話があったことをカミングアウトした現JA全中副会長須藤正敏氏は、「安倍さんは言う、地方に行くとそこに山があってその手前に水田があって、思わず息を飲み込むようなそのすばらしい景色を農業のみなさんが守っててくれると。言っていることとやってることはまったく違う。こんなことは私たちは許すことはできない。そういうことで私はここに立候補した」と宣明した(JAcom6月23日)。
須藤氏に限らず、中家会長をはじめJAグループの役員には現政権の大物らしき連中から陰に陽に秋波が送られてくるはず。しかし冷静に考えれば、諸問題のはじまりは党利党略のレベルにも達しないバカップルを軸にした私利私略である。日々営まれる農業という仕事に誇りを持っていれば恐れるものは何もない。農を軽んじるものに明日はない。落選あるのみ、バイバイ菌。
「地方の眼力」なめんなよ
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