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忖度の競争政策-公取の尊厳は何処に2017年10月19日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

 今回は「建前→本音の政治・行政用語の変換表」に掲げた次の項目を解説する。

 ≪農業協同組合の独占禁止法「適用除外」は不当=共同販売・共同購入を崩せば、農産物をもっと安く買い、資材を高く販売できる。「適用除外」がすぐに解除できないなら、独禁法の厳格適用で脅して実質的になし崩しにする≫

 歴史的に、個々の農家が大きな買い手と個別取引することで農産物は買いたたかれ、個々の農家が大きな売手と個別取引することで資材価格はつり上げられ、苦しんだ。そこから脱却し、農業所得を向上させるため、農協による共販と共同購入が導入され、それは取引交渉力を対等にするためのカウンターベイリング・パワー(拮抗力)として独禁法の適用除外になっているのが世界的な原則である。
 しかしわが国では、農家と農協が「不当な利益」を得ているとして、農協に対する独禁法の適用除外をやめるべきとの議論がかなり前からあり、近年、農協改革という名目の農協解体が国策的に推進される中で一層強化されつつある。
 最近の農協への独禁法違反摘発には2つの悪しき特徴がある。

 

◆「見せしめ」「脅し」としての競争政策の政治利用

 1つは「見せしめ」「脅し」としての競争政策の政治利用である。

事例(1)
 2013年1月25日の参院選で、山形県農政連は初めて野党候補を推薦した。その直後の1月30日に、コメの販売手数料カルテル疑惑で公正取引委員会(以下「公取」)の立ち入り調査が山形県庄内地方の5農協に入った。

事例(2)
 2014年12月14日の衆院選で、福井県農政連は苦渋の選択で与党候補を遅れて推薦したが、県下の12農協のうち11農協は反発し、中立の立場で臨んだ。その直後の2015年1月16日に、農業用施設の改修工事の落札業者を事前に決めていたとして、公取がJA福井県経済連に独占禁止法に基づく排除措置命令(行為の撤回命令)を出した。

 これらは、いずれも農協の共販行為自体に対する独禁法適用ではなかったが、極めてわかりやすいタイミングでの「あら探し」的な摘発が、稚拙な「見せしめ」であることを明白にしている。稚拙極まりない露骨な「見せしめ」と「脅し」に、本来、政治から独立した司法機関である公取が利用されることは許されるのであろうか。公取も独立した司法機関としての誇りはどこへいってしまったのであろうか。

 

◆適用除外のなし崩し化

 2つ目は、独禁法の適用除外をやめさせるのではなく、独禁法の解釈を実質的に強化して農協を取り締まり、実質的に適用除外をなし崩しにする摘発が始まっていることである。「農業生産資材及び農産物の販売に関し、公正かつ自由な競争を確保するため、農業分野における独占禁止法の取り締りの強化を図る」(「規制改革に関する第4次答申」2016年5月19日)方針と呼応している。

事例(3)
 2017年3月29日、高知県JA土佐あきに対して公取はナスの販売について、組合員に対して系統以外に出荷することを制限する条件をつけて販売を受託していたという拘束条件付取引に該当するとして排除措置命令を下した。ナスの部会は元々農家の自主的な組織で、共同出荷施設を維持し、共同販売を促進するために、自らで作っていた規約に対して、農協が系統利用を強制したかのような判断がなされた。しかも、系統利用率は50%であるにもかかわらず。
 例えば、集出荷場にナスの自動選果ラインを導入するとき、部会員農家が平等に利用料を負担する自主的取り決めを行い、利用が減った農家からは当初約束した利用料金のキャンセル料の意味合いで、通常の半額の利用料金を負担してもらうなどの約束があった。
 こうした活動を独禁法違反とすることは、農協共販を独禁法の適用除外としている22条の根幹を揺るがす重大な事態である。

 公取は「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成29年6月16日改定)で次のように説明している。

 独禁法は,協同組合の一定の行為について適用除外規定を設けている(第22条)。農業協同組合法に基づき設立された連合会及び単位農協が,共同購入,共同販売,連合会及び単位農協内での共同計算を行うことについては,独禁法の適用が除外される。しかしながら,[1]不公正な取引方法を用いる場合,又は[2]一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない。
 この適用除外制度は,以下のような趣旨のものと解されている。単独では大企業に伍して競争することが困難な農業者が,相互扶助を目的とした協同組合を組織して,市場において有効な競争単位として競争することは,独禁法が目的とする公正かつ自由な競争秩序の維持促進に積極的な貢献をするものである。したがって,このような組合が行う行為には,形式的外観的には競争を制限するおそれがあるような場合であっても,特に独禁法の目的に反することが少ないと考えられることから,独禁法の適用を除外する。

 

◆「共販を認めつつフリーライドを推奨して共販を崩す」論理破綻

 共販が有効に機能するには、共販に結集するための誘因となる自主的なルール(ある程度の縛り)は不可欠である。それなのに、それを違反だというなら、共販を「公正かつ自由な競争秩序の維持促進に積極的な貢献をする」と認めながら、「ただ乗り」を助長し、共販を壊すという論理矛盾ではないか。

 

◆欧米では共販のルールに独禁法は適用されない

 欧米の農協で全量出荷を義務付けることはむしろ普通である(農中総研の平澤明彦副部長)。例えば、米国の場合、農業協同組合は一つの事業体として捉えられており、農協と組合員との契約関係は内部関係として、反トラスト法が適用されることはない(農中総研の明田作客員研究員)。
 米国のサンキストは独禁法の適用除外となっている農協であり、組合員は柑橘生産の全量を組合を通して出荷しなくてはならない専属利用契約を結ぶ。品質や出荷時期などに厳しいルールがあり、違反者は除名処分を受ける。ブランドを守り、組合員の利益を維持するための当然の対応である。これらは独禁法上の問題にはならない。
 このような契約に同意できないならば、組合員にならず、独自に販売すればよいだけである。もちろん、その場合はサンキストのブランドを名乗ることはできない。

 

◆生乳生産者組織強化を図るEUと弱体化を進める日本

 EUでは現在、ミルク・パッケージ政策の下で、独禁法の適用除外の生乳生産者団体の組織化と販売契約の明確化による取引交渉力の強化が進められている。「改正畜安法」で酪農協(指定団体)が全量委託を義務づけてはいけないと規定して酪農協の弱体化を推進する我が国の異常性が際立っている。

 

◆共販ルールが明確でないために生じる「優越的地位の濫用」の嫌疑

 ただし、我が国では、農協と組合員間の共販のルール、特にルールを破った場合の罰則が明確でないために、「共販破り」の組合員への対応が「優越的地位の濫用」と見做される余地を与えている側面もあるように思われる。この点はよく検討すべきであろう。

 

◆「不当な価格引き上げ」か否かが問題

 米国では、カッパー=ヴォルステッド(Capper-Volstead)法によって、反トラスト法(独禁法)の適用除外になっている。しかしその結果、不当価格引き上げ(Undue Price Enhancement)などにより経済厚生上の損失が生じている場合は違法とされる。
 この考え方は基本的に日本でも同じであり、上記の「[2]一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない」が対応している。つまり、共販のルールが明確に合意されていればルール上の問題ではなく、「不当な価格引き上げが行われているかどうか」が独禁法違反か否かのポイントになる。
 例えば、飲用乳についての我々の試算では、わが国では、スーパー対メーカーの取引交渉力の優位度は7対3で、スーパーがメーカーに対して優位性を発揮し、メーカー対酪農協の取引交渉力の優位度は9対1に近く、メーカーが酪農協に対して優位である可能性が示され(図)、むしろ酪農家は買いたたかれている。こうした状況で、酪農家組織の弱体化や独禁法の厳格適用は正当化されない。

酪農家・メーカー・スーパー間のパワー・バランスの推定値

(図)酪農家・メーカー・スーパー間のパワー・バランスの推定値
資料: 結城知佳・佐藤赳・鈴木宣弘による。
(注) ω=0が完全劣位。ω=1が完全優位。θ=0が完全競争。θ=1が完全協調。

 

◆「不当な価格引き上げ」でないことの立証

 計量経済学的検証を待たなくとも、農業所得の低迷による農家減少に歯止めがかからない中、農協共販によって「不当な価格引き上げ」が行われているとは誰も思わないだろう。しかし、可能なかぎり数字で示すことで、「不当な価格引き上げ」に当たらないことを立証する努力が必要である。 
 ここで必要となるのは、不当な価格引き上げにあたるか、逆に買いたたかれているかを判断する基準値である。
 例えば飲用乳の例で、5対5の取引交渉力(図のモデルでω=0.5)を対等な水準として、そのときに計算される価格を適正価格として設定することはひとつのアイデアである。この場合、飲用乳価は生産者段階で6円、卸売段階で4円、現状より高くなる。
 つまり、現状は「不当な価格引き上げ」とは逆に「不当な買いたたき」の状況下にあり、独禁法の適用除外をなし崩しにする取締まり強化は間違いで、むしろ共販を強化すべきで、かつ、大手小売の「不当廉売」と「優越的地位の濫用」こそ独禁法上の問題にすべきということになる。

 

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鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】

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