【熊野孝文・米マーケット情報】30年産の価格が分かる「コメ先物市場」2017年11月6日
農産物づくりに対して「プロダクト・アウトからマーケット・インへ」の転換が叫ばれて久しい。とくに米は30年産から生産調整政策が見直されることもあって、一層、需要に応じた生産が求められている。では、米のマーケットとはどのようなマーケットであり、どう動くのか。毎週月曜日、米穀新聞社・熊野孝文記者による「米マーケット情報」を掲載する。
大阪堂島商品取引所のコメ先物市場「新潟コシ」の11月2日の2018年10月限の終値は1万5390円になった。この価格は、今後のコメ政策を占う意味で特別な意味を持っている。そのことを理解していただくためにコメ先物市場について少し解説したい。
◇ ◇
商品先物市場は、反対売買が可能な清算取引市場で1731年に世界に先駆けて大阪の堂島で誕生した。現在、世界では穀物に限らず、金やプラチナ、原油など様々な商品が先物市場で取引され価格が決定している。
先物清算市場では価格変動に対するリスクヘッジ機能や価格の平準化作用など多くの有用な機能があり、無くてはならない存在になっており、アメリカのコメ生産者も先物市場を活用して次年度に作付けするコメの値決め等に活用している。生産者にとって最もわかりやすい機能は、来年作付けする穀物の価格が分かることで、かつそこに売れば作付け前に所得が確定することが上げられる。
大阪堂島商品取引所の先物市場「新潟コシ」に話を戻すと2018年10月限は2018年産(平成30年産)のコメが売買される最初の月である。新潟コシの売買限月は隔月で最も近い限月(期近)は2017年12月限で、それ以降2018年2月限、2018年4月限、2018年6月限、2018年8月限、2018年10月限(期先)となっている。
2018年10月限が特別であると記した意味は、2018年8月限までは平成29年産米の新潟コシヒカリが受け渡しされるが、2018年10月限は平成30年産米の受け渡しが可能になる。つまり新潟県でコシヒカリを生産している生産者は、商品取引員に依頼して自らの意思で来年作付けする予定のコシヒカリを売り委託契約すればその日の価格で数量に応じて所得が確定する。
◆所得確定に動く生産者も
では、実際2018年10月限がどのような値動きをしたか見てみると、最初にこの限月の売買が始まったのは今年10月23日で、発会値は1万5700円であった。売買単位は1枚25俵なので、100俵分4枚を発会当日に売っておけば157万円の所得が作付け前に確定していたことになる。この価格に魅力を感じる人なら生産者に限らず、集荷業者、農協、米卸などコメに関わる人だけでなく一般の人でも売ることが出来る。コメを生産も集荷もしていない人が売る行為はスペキュレーション(投機)になるが、こうした様々な思惑を持って先物市場に参加する人が増えることによって取組高が増え保険機能がより効果的に働き、価格が平準化するという作用が生まれる。
冒頭に11月2日現在の2018年10月限の価格は1万5390円になったと記したが、発会値が1万5700円であったので310円下落したことになる。このことが重要で、価格が下落した要因は1万5700円であれば売りヘッジしても良いという判断をした生産者がほかにも出たために取引量が増え、この時点では価格が1万5390円に落ち着いたということにある。 取引員によると先物市場を活用している生産者の中には10月限に1000俵の売りを委託した人もいると言う。この生産者は30年産でコシヒカリを作付けして事前に所得を確定させるためにそうした行為を行ったものと考えられる。
翻ってコメ政策の視点から見れば、飼料用米を生産するより1万5700円程度でコシヒカリが売れるのなら主食用米を生産した方が自らの経営にプラスになるという判断であったと推察される。
来年10月の新米の価格が分かるということはコメ生産者にとって極めて有用な経営判断材料を提供してくれるということになる。アメリカの生産者はコメに限らず大豆やトウモロコシ、小麦などの先物市場を活用することによって所得を確定することはもちろん、売りヘッジすることによってその契約証明書を金融機関に提示することで作付け前から融資を受けられる。日本のコメ生産者も近い将来、そうした先物市場を活用して金融支援を受けられる日が来るに違いない。
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・【JAcom緊急調査】30年産米作況「98」(速報値)(18.10.31)
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