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【読書の楽しみ】第21回2017年12月13日

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【浅野純次 / 石橋湛山記念財団理事】

◎藤原達史
『戦争と農業』
(インターナショナル新書、777円)

 最初に申し上げておきますが、書名が本書のすべてではありません。というより戦争と農業の話は6講あるうちの2講で、全体としては広く農業と食について考える本と言ってよいでしょう。「講」というのは、著者がオープンな場で講演した多様な話を基にして出来上がった本だから。
 さて農業と戦争ですが、トラクターが戦車に、化学肥料が火薬に、毒ガスが農薬になり、さらに肥料や農薬とのかかわりの中で遺伝子組み換えが生まれました。戦争なしには農業の、農業なしには戦争の「発展」はなかった、のだそうです。
 一方で、私たちの生き方を規定する仕組みは、たとえば競争システムという形で社会を捻じ曲げていきます。著者は飢餓と飽食など荒廃しつつある食、画一化しつつある農業などへの問題提起を行いあるべき農業と食を改めて問い直そうではないかと訴えます。というわけで、議論の材料としても有意義な本と言えるでしょう。
 中でも私が興味を持ったのは、実際に農山村に暮らす人たちは政府主導の地域創生よりもはるかに優れた工夫をして成功しているという具体的な指摘でした。大きくて脆いものより小さくて強いものを増やす方向へ、というのは重要なヒントのように思われました。

 

◎青沼陽一郎
『侵略する豚』
(小学館、1512円)
 
 世界で豚肉輸入トップはどこでしょうか。日本です。そして最大の輸出国はアメリカ。日本はアメリカの輸出の3割を占めていて、自給率は5割です。
 表紙の帯に「ある日、太平洋を越えて35頭の種豚がやってきた」とあります。伊勢湾台風で養豚業が壊滅的打撃を受けた山梨県の農家への贈り物として、アメリカがわざわざ空輸してきたのです。
 まことに美談ですがこれには何万頭もの子孫たちの飼料(コーン)の対日輸出という壮大な構想がありました。美談の裏に戦略あり。戦後のLARA物資と構図は同じです。
 食肉加工の現場へ入り込み、業界幹部やロビイストに取材を重ねて、アメリカの肉輸出にかける執念と知略と努力を描き出します。
 これに比べれば日本などやわなもの。米中の思惑を知らずして日本の畜産の前途は危ういと思わざるをえません。米中を股にかけたドキュメントの秀作です。ただし「日本もいっそアメリカ同様に成長ホルモンを使え」というご意見には賛同しかねますけれども。

 

◎仲野徹
『こわいもの知らずの病理学入門』
(晶文社、1998円) 

 病理学というと難しそうに聞こえますが、病気はなぜ、どのようにして起きるのか、どうすれば治るのか、を究める学問のこと。医学者やお医者さんの日常を学問化したものと言ってよいでしょう。
 とはいえ、医学的知識も常識もほとんどない私たちにそれを易しく説明するのは容易なことではありません。それを仲野センセイは見事にやってのけました。それも学問的に妥協したりすることなくかつ読者を退屈させることなく、です。
 どうしたか。登場するダジャレは数限りなく、しばしば脱線し、医学の面白いエピソードもたくさん差し挟みながら「学問」を解説したのです。
 細胞の生き死に、血液のサラサラと固まり(つまり血栓や梗塞など)、ガンの性状および人とガンの戦い、などテーマは旬のものに限られますが、とても勉強になりました。医学用語が多すぎるのが難ですが、わかりにくいところを飛ばすのは読者の権利でしょう。

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