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参考人質疑=究極の形式的アリバイ作り2017年12月28日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

 今回は、「建前→本音の政治・行政用語の変換表」に次の用語を追加したい。

●参考人質疑
=究極の形式的アリバイ作り。午前に質疑、午後に即採決。参考人意見が法案に反映される余地はまったくなし。

 

 最近、法令関係誌などで、2017年の春に成立した農業競争力強化支援法、畜安法などの行政担当者による解説が行われている。それはそれで詳細な条文解釈について有益で、所管官庁の担当部署が努力していることはよく理解できる。
 ただ、その大元の背景・底流にある方向性にそもそも根本的な問題があると、担当部署もつらいところである。今回は、農業競争力強化支援法について、より本質的な大枠の視点を見失わないために、本法の国会審議の参考人として意見陳述した筆者の見方を紹介したい。
 参考人質疑の位置づけは上記の通りの形式的なものになってしまっているが、無力感を抱きつつも、可能な限り議論喚起になるようにと、日程が合う限り、筆者もいくつか引き受けてきた。

 

◆農業競争力「強化」か「弱体化」か

 まず、農業競争力強化支援法は、農業競争力強化の支援と言いながら、具体的施策部分は、生産資材、食品加工・流通に関わる事業再編・参入を認定して融資するだけのもので、包括的ビジョンに欠け、格調が低い。
 かつ、資材価格の引き下げと農産物販売価格の向上をめざすとしながら、農業者の共販・資材の共同購入の強化は、むしろ否定している。これは、資材価格の引き下げと農産物販売価格の向上のために農業者の共販・共同購入が導入された経緯に鑑みると、論理矛盾のようにも思われる。つまり、農業競争力の強化でなく、弱体化につながりかねない側面がある。
 そもそも、本法は、「農業競争力強化プログラム」に基づいた政策実施の一連の8法の1つで、8法はセットで考える必要がある。8法の底流には「民間活力の最大限の活用」「企業参入」という表現で、「規制緩和すればすべてがうまくいく」というシンプルな経済理論がある。そして、その裏には既存の組織によるビジネスやお金を自らの方に引き寄せたい「今だけ、金だけ、自分だけ」という「3だけ主義」の人たちの思惑が疑われる
 国民が求めているのは、国内外の一部の企業利益の追求ではなく、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために、国民それぞれがどう応分の負担をして支えていくのかというビジョンと、そのための包括的な政策体系の構築である。競争は大事だが、競争に対して、共助・共生的なシステムと組織(農協や生協など)の役割、消費者の役割、政府によるセーフティネットの役割などを包括するビジョンが本法にはない。 視野の狭い効率性の追求だけでは、国民の命の要である安全な食料を確保し、健全な国土環境、地域社会を維持し、国民にあまねく利益が行き渡るような格差の少ない社会の実現に逆行する。この状況は、与党・野党を問わず、多くの国会議員にとっても、法案提出の所管官庁にとっても本意ではないと思う。

 

◆「中抜き」(=協同組合を使うな)の奨励

 8法が目標として掲げるキーワードは「農業所得の向上」であるが、本法についても、農業資材産業と農産物流通企業の利益増大と裏腹に農業所得は減少しかねない懸念がある。
 なぜなら、この法には、もっと個々の農家が農産物の販売先や資材の購入先を「多様化」させて、農協を通じた共販や資材の共同購入からの離脱(「中抜き」=農協を利用しないこと)を促進する意図が、「農業者の努力義務」として「有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて、農業経営の改善に取り組む」(5条1項)との文言に見て取れる。わざわざ、こんなことを法律に書く是非も問われるが、「有利な条件」の内容が問われる。一見、短期的に有利に見える個別取引には長期的・総合的には落とし穴がある場合がある。

 歴史的に、個々の農家が大きな買手と個別取引することで農産物は買いたたかれ、個々の農家が大きな生産資材の売手と個別取引することで資材価格はつり上げられ、苦しんだ。途上国の農村では今もそうである。生乳の販売組織が解体されて酪農家が分断された英国では乳価の暴落に苦しんでいる。
 つまり、多数の農家に対して市場支配力をもつ農産物の買手と生産資材の売手が存在する市場で、個別取引を推進することは、農産物の買手と資材の売手の利益を不当に高める危険がある。だからこそ、農協の存在による共同販売と共同購入が正当化され、それは取引交渉力を対等にするためのカウンターベイリング・パワー(拮抗力)として、カルテルには当たらないものとし、独占禁止法の適用除外になっているのが世界的な原則である。
 経済理論的にも、寡占的市場では規制緩和は正当化されない。市場支配力を持つ買手や売手がさらに利益を得る一方で多数の利益が減少する形で、市場がもっと歪められてしまう可能性があるからである。
 つまり、農業所得の向上のためには、協同組合を通じた共同販売・共同購入が重要であることを、しっかりと法に位置づけるべきである。しかるに、8法の元になっている「農業競争力強化プログラム」には、買取販売への移行や資材の情報提供に徹することなど、共販と共同購入をなし崩しにする方向性を求めており、協同組合の存立要件を否定するものとなっている。それと連動して、個々の農家の取引の「多様化」を促す本法は、農産物の買いたたきと資材価格のつり上げにつながり、農業所得の向上とは真逆の結果になりかねない。

 

◆コストダウンだけが競争力強化なのか=真に強い農林水産業とその支援策の考え方

 本法は、コストダウンだけが競争力強化につながるかのような構成になっているが、これも疑問である。真に強い農業とは何か。規模拡大してコストダウンすれば強い農業になるだろうか。規模の拡大を図り、コストダウンに努めることは重要だが、それだけでは、日本の土地条件の制約の下では、オーストラリアや米国に一ひねりで負けてしまう。同じ土俵では勝負にならない。少々高いけれども、徹底的に物が違うからあなたの物しか食べたくない、という人がいてくれることが重要だ。そういうホンモノを提供する生産者とそれを理解する消費者との絆、ネットワークこそが強い農業ではないか。
 スイスの卵は国産1個60~80円もする。それでもその卵のほうが売れていた(筆者も見てきた)。小学生くらいの女の子が買っていたので、聞いた人がいた。その子は「これを買うことで生産者の皆さんの生活も支えられ、そのおかげで私たちの生活も成り立つのだから、当たり前でしょう」と、いとも簡単に答えたという。キーワードは、ナチュラル、オーガニック、アニマル・ウェルフェア(動物福祉)、バイオダイバーシティ(生物多様性)、そして美しい景観である。こういった要素を生産過程において考慮すれば、できたものもホンモノで安全でおいしい。それはつながっている。それは値段が高いのでなく、込められた価値への正当な対価だと国民が理解しているから、生産コストが周辺の国々よりも3割も4割も高くても、決して負けてはいない。
 スイスでは、ミグロという生協(食料流通の過半のシェアを持つ)と農協などが連携して、消費者と生産者が納得できるホンモノの基準を設定・認証して、健康、環境、動物愛護、生物多様性、景観に配慮した生産を促進し、その代わり、できた農産物に込められた多様な価値を価格に反映して消費者が支えていくという強固なネットワークを形成できている。こうした農家、農協、生協、消費者等との連携強化は、我が国でも期待したい。消費者は自分たちの命を守るには国内農業生産をしっかり支える覚悟を持ち、生産者は国民の命、健康、国土、環境を守る仕事にさらに誇りを持って努力することが望まれる。こうした取組みを推進している生協など消費者サイドへの支援も「農業競争力強化」の重要なパーツと位置付ける必要がある。
 イタリアの水田地帯の住民の話も象徴的である。水田にはオタマジャクシが棲める生物多様性、ダムの代わりに貯水できる洪水防止機能、水をろ過してくれる機能、こうした機能に国民はお世話になっているが、それをコメの値段に十分反映できているか。できていないのなら、ただ乗りしてはいけない。自分たちがお金を集めて別途払おうじゃないか、という感覚が税金からの直接支払いの根拠になっている。
 根拠をしっかりと積み上げ、予算化し、国民の理解を得ている。個別具体的に、農業の果たす多面的機能の項目ごとに支払われる直接支払額が決められているから、消費者も自分たちの応分の対価の支払いが納得でき、直接支払いもバラマキとは言われないし、農家もしっかりそれを認識し、誇りをもって生産に臨める。このようなシステムは日本にない。
 さらに、米国では、農家にとって必要な最低限の所得が確保されるように、それに見合う価格水準を明示して、販売価格がそれを下回ったら政策を発動して差額を「不足払い」するから安心して投資計画を立てて生産して下さい、という「予見可能な」システムを完備している。
 これが食料を守るということだ。農業政策は農家保護政策でなく、国民の命を守る真の安全保障政策である。こうした本質的議論なくして食と農と地域の持続的発展はない。本法には、そうした包括的なビジョンがなく、単に競争を促進すればうまくいく、そして、それは一部の大手企業の私益拡大に都合がよい、という視点になってしまっているのではないかと危惧される。
 我が国で導入される収入保険は米価が下がるたびに基準収入が下がり、セーフティネットとはいえない(別の回に解説する)。まったく規模の違う(大規模な)米国農業が「不足払い」などで徹底した農業競争力強化支援策を行っているのに、我が国はセーフティネットもなくし、コストダウンだけで競争に勝てるというのは、結局日本から農業がなくなってよいという議論になりかねない。
「規制緩和がすべてを解決する」かのように問題を矮小化してはいけない。小手先のコストダウンは解決ではない。農家の取引交渉力の強化には共販と共同購入の強化こそが必要である。ホンモノを生産する生産者と、それを納得して支える消費者との絆がある農業こそ強い農業だ。農業政策を国民の命を守る最重要な安全保障政策として再構築すべきである。

 

◆一方的な政策決定プロセスの異常性

 一連の政策決定プロセスの異常さも看過できない。法的位置づけもない諮問機関に、利害の一致する仲間(彼らは米国の経済界とも密接につながっている)だけを集めて国の方向性が「私的」に決められ、それに対する抑止力がほとんど働かないのは異常である。
 現状を「市場にいる従来のプレイヤーと市場を奪いたい新規プレイヤーとのせめぎ合い」と捉えたとしても、サッカーの試合に例えれば、従来プレイヤーと新規プレイヤーの試合の審判を新規プレイヤーが兼ねているような試合になっており、結論の公平性がまったく確保されていない。
 2008~9年に前の自公政権下で結成された「農政改革特命チーム会合」のような、様々な立場の意見が総合できる会議を立ち上げ、それと食料・農業・農村審議会とが連携して、欧米のように、自分たちの命、環境、地域、国土を守る食料・農業を国民それぞれが、どう応分の負担をして支えていくか、というビジョンの練り直しが必要である。
 「農政改革特命チーム会合」では、現場の声に応えて農業所得のセーフティネットを再構築する具体的提案の選択肢が示され、その一つが民主党政権下で戸別所得補償制度の具体像として採用された。つまり、国民の食料を守るために必要な政策は、与党、野党を問わず、現場の農家や消費者・国民の声をしっかり踏まえて形成されうるものであり、「今だけ、金だけ、自分だけ」(3だけ主義)の一部の人たちのための政策は、多くの国民にとって本意ではない。「売り手よし、買い手よし、世間よし」(3方よし)の法律をつくるべきである。

 

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鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】

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