【近藤康男・TPPから見える風景】通常国会を前に改めて情報開示を問う2018年1月18日
昨年12月21日のコラムで“やはり!情報開示の姿勢を問わざるを得ない”として通商交渉におけるEUと日本政府との大きな差についてごく簡単に記した。まもなく通常国会が開催されCPTPP(所謂TPP11)について国会審議がされる筈だが、既に“決着した”とされるCPTPP、日EU・EPAについては、国会議員に対してもほとんど情報が提供されず、充分な審議が不可能なまま数の力で承認されることが懸念される。
常に繰り返される「交渉中なので説明は差し控えたい」というお決まりの文句は果たして万能なのか考えてみたい。
◆通商交渉は交渉官だけでなく、国民のモノでもある
民主主義においては情報の透明性こそが基本であり、秘密性は例外的であるべきだ。
交渉相手との信頼関係、並行する通商交渉への影響ゆえに外交交渉に秘密はつきものである、と言われる。しかし、信頼関係は交渉官同士の人間力により醸成されるもので、国民(市民)が知ることとは関係ない。情報化社会では、単一でも複数で並行する協定交渉でも国内・海外共に一定の情報は伝搬するし、相手国の交渉の基本的立ち位置は各国とも互いに承知しているはずだ。
交渉当事者にとって、国会を含め外野席が騒がしくないほうがやり易いのは当然だが、透明性は民主主義のコストだ。
◆自国の提案内容、交渉方針は多くの国で公表されている
米国のTPAは、交渉の方針、交渉中の議会への経過報告・相談などの手続きを法律にうたい、その範囲で政府に交渉委任をしている。EUの公開の意見聴取とそれに基づく方針の開示や欧州議会による欧州委員会への交渉委任手続きも同様だ。
日本の場合、唯一あるのは「関係閣僚会議」だけであり、他国に比べ議会の権能がほとんど無視されていると言ってもいい。
そして近くは、NZ新政権のCPTPP交渉を前にした「海外投資法」改正、ISDS反対などの言及は日本でも報道された。NZのように議会での協定批准が必要とされていない国でも、議論は国民に見えるところでなされている。
日EU・EPA"大枠合意"後の欧州委員会ウェッブサイトでの提案条文の公表、日・EU双方の意見併記の条文公表は更に具体的な事例だ。
◆"相手国に無断でオ-プンにするのは信義違反"、本当か?
情報開示を政府に要求する場合、相手の国の言い分を無断で公表することは求めていない。国民が求めていることは自国の立ち位置と交渉の進展度合いだ。双方が、自国の立場についてその国民に対して公表すれば、結果的に交渉官同士だけでなく国民同士も知ることになるだけで、"信義"の問題とは関係ない。想定される影響は、議会や業界、市民団体からの反対論や、あるいは逆に、要求を後押しする声、それに対応する手間くらいしかないだろう。そそしててそれこそが"民主主義のコスト"、国民主権のあり様と理解すべきだ。交渉そのものへの影響があるとは考えられない。
◆交渉中の自国提案・意見が公開(あるいは漏えい)されることによる交渉への影響は果たしてあるのか?
TPPにおいて、14年4月下旬の日米首脳会談(+閣僚会談)の前後に新聞各紙の主要農産品の関税についての報道、また韓国に向かう大統領専用機中でのフロ-マン氏の記者ブリ-フィングなど、かなり具体的な報道・情報が流れた。しかしそのほとんどはその後のTPP交渉の流れに沿った内容でしかなかったし、交渉に決定的にマイナスの影響があった痕跡は見られない。
◆果たして正当化されるか、交渉は最後に全体が合意する迄は、合意ではない、それまでは公表できない??
交渉なるものが最後の瞬間まで合意とは言えないことは、広く知られた常識だ。また、最終局面で他の要素とのバ-タ-で合意事項が変わることもあるのも当然のこととして周知されている。10月末のCPTPPでも、度重なる取材陣の問いかけにも、凍結項目の内容、項目が愿協定のどの章のものなのか、更に項目がいくつなのかさえも明らかにされなかった。農業分野の懸念事項が交渉に付されたのかどうかについても答えはなかった。
合意は最後に全てが合意されるまでは合意ではない、という周知のことを前提にした上でも交渉内容を全て伏せるということが正当化されるだろうか?これは、交渉を交渉官のモノとする身勝手でしかない。
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