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おにぎり1個の生産コスト 1円上昇で1800万円減収2018年2月13日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

 ある研究機関から「業務用米の流通経路がどうなっているのか教えて欲しい」という依頼があった。頭の中で図を描いてみたのだが、とても描けるようなものではないことが分かった。なぜなら業務用米の流通はあまりにも複雑で線を引いて流れを示せるようにはなっていないからである。

慣行栽培5㎏袋の平均価格(税込)の推移

 単一企業として最もコメの使用量が多いコンビニにしてもコメの仕入れは、ベンダー組織がコメ卸から調達するものもあれば、大手商社が仕入れ先を特定し卸に委託精米させているところもある。中小の外食店や弁当、総菜など中食業者は個々の企業によって様々な仕入れを行っており、さらに複雑である。こうした中小の中食・外食店に精米を供給している業務用小売店の営業形態もさまざまである。
 例えばコメ卸並みに大型精米工場を構え、百社単位の中食・外食店に精米を供給しているところもあれば、個人で産地の生産者や集荷業者から精米を仕入れて高級外食店に特化してダイレクトに精米を供給しているところもある。
 また、その仕入れ手法も独特で、都内にあるS社は千葉コシヒカリを仕入れるに際して、千葉県を8地区に分割、それぞれの地区から仕入れたコシヒカリを自社でブレンドする。なぜそんなことをするのかというと精米の品質と食味を安定させるためである。納入先の外食店からは「あんたのところの白米は炊いた時に特に美味いというわけじゃないけど安定しているね」と言われるが、S社にとってはそれが最高の褒め言葉である。
 なぜなら中食・外食店にとって一番困るのが炊き上がったご飯の食味や品質が安定しないことであり、白米の品質・食味が安定していないといけない。そのためにわざわざ独自にフレコンから紙袋に詰め替える機械まで開発し特許を取得している。当然のこととしてそうした白米を供給してくれる米穀店であるということを相手先から信頼されるまでのノウハウの蓄積には大変な労力を要する。S社には全国各地から仕入れた各産地銘柄米の品位データはもちろん毎日行う試食の官能データが蓄積されている。
 相手先から信頼されている業務用米小売店の中にはオバマ大統領が訪れた著名な寿司店に白米を納入しているところがある。その米穀店の白米納入交渉は、寿司店のオーナーが白米を手で握るだけ。年産も産地も銘柄も納入価格も聞かない。握った白米の感触ですべてが決まる。そこまでの信頼を勝ち得るまでの努力は並大抵ではない。ちなみにその白米は一般にはあまり知られていない知る人ぞ知る産地のコメが主原料である。

  ◇    ◇

白米5kg当たりの販売価格(税込み:円)

 そうした業務用米専門小売店の集まりが都内であった。話題の中心はこのところの仕入れ玄米の急激な値上がりで、「長く米屋をやっているが3年連続で価格が上がったのは初めての経験だ」という声が多く聞かれた。仕入れ玄米の値上がりを白米の納入価格に転嫁できれば良いのだが、29年産はキロ換算で45円値上がりしているが、値上げが通るのはせいぜいその半分。買い手の中食業者が業務用米マッチングフェアの講演で以下のようなことを言っていた。
「購入した白米価格がキロ20円アップするとおにぎりの製造コストは1個1円のコスト増になります。たかが1円と思われるかもしれませんが、製品の値上げが通らないと1年間で1800万円の減収になります」
 量販店等で販売されている弁当やおにぎりの価格を見れば分かるようにこの世界の競争は激烈である。製品の値上げが通らなければご飯の量を減らすしかなく、弁当1個のごはんの量は250gであったものが200gに、おにぎりは120gから100g、さらに90gになっている。中食業界の推計ではこうした"節米"で40万tのコメ消費減になったと言っている。
 大手コンビニや大手外食企業に白米を納入している商社の中には原料米の仕入れ価格を安定させるためにユニークな取り組みをしているところがある。それは大規模稲作生産者や農協に対して事前契約を行うに際して、生産されるコメの品種から作付規模、使用する農機具、資材等様々なコスト要因をエクセルに落とし込んで収益計算をして見せる。生産コストが分かるので、契約に結び付きやすいというもので実際にそうして契約したコメを仕入れて実需者に納入している。当事者は急速に拡大していると言っているが、そうそう簡単な話ではない。その最大の要因はコメの値動きがあまりにも激しいからである。

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