【近藤康男・TPPから見える風景】やはり譲歩の連鎖、CPTPPと日EU・EPA2018年2月15日
前回2月1日掲載のこのコラムで、CPTPPで日本だけが唯一得たのが“カラ手形”だと書いた。そして2月7日に開催された「TPPプラス交渉をただす!院内集会」で、政府は、CPTPPについて、(1)第6条の“協定見直し”で「低関税枠や緊急輸入制限発動基準数量の実質的後退」を食い止めたと、条文の何処にも書かれていない言い訳をし、(2)「カナダ政府への自動車の日本への輸入規制緩和の約束」について“TPP水準を維持している”という言い訳で他の国々がTPPで失ったものを一旦は取り戻したのに日本だけは取り戻してもいないことに口をつぐんだ。ISDSについても、既にNZ・豪州、途上国の多く、そしてEUが拒否しているのに、“日本企業の海外投資の保護に必要”と拘った。多くの国がISDS否定に傾いているのは、途上国も含め投資家保護の法整備も徐々に進み、海外の投資家にのみ特権的地位を与え、訴訟に費用と時間と人材を割き、時に巨額の補償を迫られるのは不公正で、特定少数のISDS専門屋を潤すだけだという事実を重く見ているからだ。ISDSは時代遅れなのだ。
◆TPPが制約する地域主権、地域での経済循環
さて今回は、決着したとされる日EU・EPAについて少し触れたい。
CPTPP及び日EU・EPAは、多国籍企業の権能と利益拡大のために事業環境を整えること、そのことと裏腹に、地域における経済循環と地域主権や途上国の国民経済の発展を制約することに本質がある。その点で、多国籍企業の権能と利益拡大を支える投資・金融・サービス貿易の分野と、地域の主権や地域における経済の循環を規制する規制の整合性・公共調達・国有企業などの分野の重要性が高い。同様に農産物の市場開放を促す市場アクセスに関する分野も、地域を支える農業を脆弱にする点で地域の均衡ある発展を制約するものとして重要である。
◆やはりTPP以上に譲歩、地域を制約する日EU・EPAの公共調達
地方の疲弊が進む中で、地域振興策を進めること、地域内における経済の循環を実現することが重要となっている。公共機関による調達(物品・サ-ビスの購入)もその点で重要な経済活動だ。外国企業を全ての調達から排除する必要はないものの、少なくとも地方における調達は、地域経済に意味のあるもの、地域の企業が活躍できるもの、調達の利益が域内に循環するようなものでなければならない。
しかし、日EU・EPAでも、一定金額(基準額)以上の公共調達を無差別の公開入札で行うこととしている。既に日本が積極的に進めたWTO有志国の政府調達協定で公共調達は大きく制約され、地域独自の政策の制約を受けている。
TPPにおいては、日本の基準額はほぼ全ての調達分野で最も広く市場開放(TPP附属書15-A英語版)しており、一方、米国・ベトナム・マレーシア・メキシコ・ニュージーランドは、"TPP政府調達章の附属書15-AのB節注釈1"で地方政府(都道府県・政令都市にあたる)を公共調達章の適用対象外とすることを認められている。
日EU・EPAの公共調達は17年13日付で、(英文で)TPPの本文24条・28ページ
+日本の国別表20ページに対し、本文8条・9ページ+日本の国別表8ページとやはり小振りだ。大半が、12年3月30日付け改訂WTO協定の付属書4に含まれる政府調達協定GPAに準拠した協定としたためでもある。条文の多くも"GPAに準拠"といった体裁が目立つ。
※TPP政府調達15-A日本国の表(対象政府機関)
※日EU・EPA政府調達
そして、TPPで除外されていた政令都市以外の"中核都市"、大学・病院・鉄道などを含む都道府県・政令都市・中核都市段階の独立行政法人などが規制対象として多数追加されている。
※日EU・EPA10章SectionB-I日本の表
その中には経営的に厳しい機関も多くあるはずで、それは私たちの税金で支えられているはずだ。その税金は公共調達を通じて地域外、場合によっては海外に流出していくことになる。安易な地域外資本への開放ではなく、地域での経済循環に繋がる調達が必要だ。
対象機関が拡大されただけでなく、TPPで対象外(G節一般的注釈)とされた地方政府やその他の関係機関による食料・飲料(学校給食、上水事業など)、地方政府の発・送・配電事業(B節の注釈)、運送の安全に関する調達などについても適用外とはされていない。
将来の民営化の形態次第では、水道事業(飲料)における調達の制約を受ける懸念がありそうだ。
※ ※ ※
政府は都合のいい部分だけ、"TPP基準を守った"などと言わず、客観的には譲歩の連鎖を続けていることを認めるべきだ。
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