【小松泰信・地方の眼力】サガワ濁りて、マエカワ清し2018年3月21日
3月17日の朝、NHKニュースの“西日本の旅”というコーナーで、香川県三豊市仁尾町の父母ヶ浜(ちちぶがはま)が紹介された。日本の“ウユニ塩湖”とも呼ばれる絶景のビーチ。1年ほど前から、インスタ映えを狙う若者が全国から集まっている。
今でこそ注目されているが、20年ほど前には、工場誘致で浜の埋め立て計画が持ち上がった。大切な浜を守りたいという思いから、地元の人たちは清掃活動を始めた。工場誘致の話は白紙となり、インスタ映えの聖地となる。掃除は今も続いている。
極めて興味深い戦い方である。
◆面従腹背の前川氏は講師としては不適格!?
極めて興味深い戦い方と言えば、スタンフォード大学ロバートI.サットン教授による、『部下を守る「盾」となれるか(TheBossasHumanShield)』(ハーバード・ビジネス・レビュー2011年2月号)という論考は、説得力無き指示から部下を守る手段として、「創造的無能」(重要ではない用事を押しつけられ、しかも無視できない場合、さっさと片づけて、より重要な課題へと進むこと)と、「悪意に満ちた恭順」(愚かな命令に逐一従い、その仕事を失敗に終わらせること)という、面従腹背をすすめている。
面従腹背という四文字熟語を座右の銘として役人生活を送っていた、前川喜平氏(前文部科学省事務次官)の周辺が、また賑やかになってきた。
氏が今年2月に、名古屋市の公立中学校で講師として授業を行った時の内容や録音データの提出を、文部科学省が市教育委員会に求めた問題である。同委員会の教育長は、「単なる問い合わせと捉えており介入とは認識していないが、このような問い合わせは今まで聞いたことがない」とコメントするとともに、当該授業については、「『開かれた教育』の一環として、総合的な学習の時間の指導計画に基づき、キャリア教育の視点で行われており、特に問題はない」と語っている(東京新聞、3月16日夕刊)。
毎日新聞(16日東京夕刊)によれば、林文科相は、「誤解を招きかねない面があった」として、担当の初等中等教育局長を口頭で注意した。しかし、「地方教育行政法は教育委員会の事務に対して必要な調査をできると定めている」と述べるとともに、録音データを求めた件についても「必要があれば必ずしも否定されるものではない」として、「(市教委への)問い合わせは法令上、適切だった」との見解を示した。さらに、校長が、前川氏が天下り問題で停職相当の懲戒処分になったことなどを詳細に把握していなかったとして、「十分調べることなく招いたのは適切ではなかった」とも述べている。
要するに、手口には注文を付けながら、講師としては不適格の烙印を押しているだけ。
◆支持率を下げてくれる自民党議員に感謝
森友同様これもまた、役人が独断でやるはずがない。役人は忙しい。ましてばれた時の責任は重い。そもそもやる動機がない。政治家の差し金であることは間違いない、と皆が思うはず。16日の野党合同ヒアリングで政治家の介入の有無を問われた彼ら、やはり賢い。ばれるのは時間の問題。「あくまでも私たちの判断」と言いつつ、身体からは"政治家の介入、当たり前ジャ~ン"オーラ出しまくり。
果たして、20日の毎日新聞は一面で、文科省に照会をかけたのが、自民党文科部会長代理の池田衆院議員と文科部会長の赤池参院議員。池田議員は市教委への質問項目の添削もしていたことを伝えている。
続報として、毎日新聞WEB(20日、11時28分)は、林文科相が記者会見で、両氏が複数回照会したことと、池田氏が質問項目を2ヵ所修正したことを明らかにした。しかし、「問い合わせや質問の修正は省の主体的な判断で行った。議員の指示ではない」と述べ、教育への政治家の介入に当たらないとの見方を示した、とのことである。これで自民党の支持率低下は必至。
教育行政のプロである前川氏が、19日に出したコメントの要点は以下の4点である。
1)個別の学校の授業内容に対する国の直接的な介入は極めて異例。教育基本法が禁じる「不当な支配」に当たる可能性が高い。
2)録画等を提出することは悪しき前例を作ることになりかねないので、提出を控えるよう要請した。
3)外部から何らかの強い政治的な働きかけがあったと思う。
4)文科省がそうした政治の介入に屈したことは残念だ。
◆「悪意に満ちた恭順」から見える風景
介入か否かの判断はこれから明らかになる事実と議論に委ねるが、前川コメントの4)については、異論を唱えたい。
結論から述べれば、前述したサットン教授による、「悪意に満ちた恭順」、つまりレベルの低い政治家ならではの愚かな命令や修正に逐一従い、その顛末を白日の下にさらすことでの「告発」。まさに面従腹背、前川氏のレガシーここにあり、という見方である。
森友文書改ざん事件もこの視角で見ると、少し違った風景が見えてくる。
毎日新聞(18日)は、森友問題における改ざん前の決裁文書が"異様な細かさ"で克明に記録されている点に注目し、"担当した職員の心象風景"の解読に迫っている。
元財務官僚は、「決裁文書は読む人が読めば分かる必要最小限の表現や簡潔な記述が多かった」と振り返り、「これほど生々しい記録をあえて残しているような文書は、見たことがない」と言う。そして「将来、政治家の意向をそんたくした異例の処理だとして問題視される可能性に備え、近畿財務局が組織防衛のために詳細な記録を残したとも考えられる」と、推測している。
もちろん担当職員は、「本件の特殊性」を皆に共有してもらい、仕事を前に進めることを考えていたはず。と同時に、危ない橋を渡っていることも分かっていたはず。担当者がまじめであればあるほど、決裁前に上司から削除や訂正の指示があることを前提に、知りうる情報すべてを文書化するはず。結果的に、あちこちに地雷が埋まっている文書が決裁された。そして、ある発言から地雷の撤去命令が発出され、埋めていた責任が問われかねない状況となる。意識的だとすれば、評価すべき「悪意に満ちた恭順」。
◆官僚の矜恃に期待
19日の参院予算委員会で、首相や財務相に有利な答弁をしなかったとして、太田理財局長に「安倍政権をおとしめるために意図的に変な答弁をしているのではない」と、チンピラの因縁付けに近い質問をする議員の姿に、自民党のレベル低下と焦りがうかがえた。太田氏の色をなして反論する姿にはグッと来るものがあった。もっと怒れ!
近日中に証人喚問が予定されている佐川氏には、濁ったサガワから清らかなサカワへと生まれ変わるつもりで、真実を語って欲しい。官僚の矜恃にかけて。
「地方の眼力」なめんなよ
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