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国際家族農業年+10に込められた想いと闘いの歴史2018年3月22日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

鈴木宣弘・東京大学教授 「家族農業の10年」(the Decade of Family Farming)を理解するには、FAO(国連食糧農業機関)VS 世銀・IMF(国際通貨基金)の途上国農村支援をめぐる闘いの歴史とFAOの想いを知らなくてはならない。
 国連は2017年12月20日、第72回総会本会議で、2019~28年を「家族農業の10年」と定めた。これは、2014年に国連が定めた「国際家族農業年」を10年間延長するというもので、2014年の国際家族農業年以来、FAOなどが「家族農業の10年」の設置を求めて国際的キャンペーンを展開し、世界各国でこの動きを支援する組織が形成され、各国・地域で議論を盛り上げてきた成果である。
 これは、米国主導の世銀・IMF(国際通貨基金)の開発援助を通じて多国籍企業などが途上国の農地を集め大規模農業を推進し、流通・輸出事業を展開して途上国農村をもうけの道具とする流れに対抗して、世界各国・各地域で小規模・家族農業を関連政策の中心に位置づけようという抵抗の機運が拡大していることを示している。
 そこにはFAOの苦難の歴史がある。FAOは途上国の農業発展と栄養水準・生活水準の向上のために設立されたので、各国の小農(家族農業)の生活を守り、豊かにするinclusive な(あまねく社会全体に行きわたる)経済成長が必要と考えたが、米国が余剰農産物のはけ口が必要で、また米国発の多国籍企業などが途上国の農地を集め大規模農業を推進し、流通・輸出事業を展開する利益とはバッティングする。そして、FAOは1国1票で途上国の発言力が強いため、米国発の穀物メジャーに都合がよい「援助」政策を遂行できないことがわかってきた。
 そこで、米国主導のIMFや世銀に、FAOから開発援助の主導権を移行させ、「政策介入による歪みさえ取り除けば市場は効率的に機能する」という都合のいい名目を掲げて、援助・投資と引き換え条件(conditionality)に、関税撤廃や市場の規制撤廃(補助金撤廃、最低賃金の撤廃、教育無料制の廃止、食料増産政策の廃止、農業技術普及組織の解体、農民組織の解体など)を徹底して進め、穀物は輸入に頼らせる一方、商品作物の大規模プランテーションなどを、思うがままに推進しやすくした。しかも、強制したのでなく当該国が「自主的に」意思表示したという合意書(Letter of Intent)を書かせた。
 FAOは弱体化され、真に途上国の立場に立った主張を続け、地道に現場での技術支援活動などを続けてはいるが、基本的には、食料サミットなどを主催して、「ガス抜き」する場になってしまった。
 今でも、飢餓・貧困人口が圧倒的に集中しているのはサハラ以南のアフリカ諸国であり、この地域がIMFと世銀のconditionalityにより、最も徹底した規制撤廃政策にさらされた地域であることからも、「政策介入による歪みさえ取り除けば市場は効率的に機能する」という新古典派開発経済学の誤謬は証明されている。というか、そもそも、貧困緩和ではなく、大多数の人々から「収奪」し、大企業の利益を最大化するのが目的だったのだから、当然の帰結なのである。
 こうした米国の穀物メジャーによる自己利益のための開発政策から脱却し、真に途上国の貧困削減につながる開発援助政策を回復するには、IMFや世銀のconditionalityに対抗して、真に途上国のための投資が行えるように、中国、ロシア、インドの新興国が中心となってAIIB(アジアインフラ投資銀行)を立ち上げたような動きにFAOなどが連携して、米国・穀物メジャー主導に対する対抗軸を形成していく必要があるとの指摘は一定の妥当性を持つように思われる。
 IMF・世銀のconditionalityで農民組織の解体も指示されたことからも明らかなとおり、「介入による市場の歪みを取り除く」という名目で、大企業の市場支配力による農産物の「買いたたき」と生産資材価格の「つり上げ」という市場の歪みを是正しようとする協同組合による拮抗力の形成を否定することは、市場の歪みを是正するどころか、大企業に有利に市場をさらに歪めてしまうことが意図されたということである。
 「家族農業の10年」は小農・家族農業を守ろうとするFAOの決死の巻き返しである。これをスローガンと「ガス抜き」で終わらせてはならない。今回の制定は、確かに、世界各国・各地域で小規模・家族農業を関連政策の中心に位置づけようとする国際的流れが拡大していることを示すものではあるが、米国主導の穀物メジャーなどが都合よく儲けるための農業・農村支援の名の下の収奪の現状から脱却し、真に小規模・家族農業を再評価し、政策的に支援する方向性を本当に具体化できるかどうかが問われているのである。本当の闘いはこれからである。

 

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