(075)水準点・坂上田村麻呂・ベンチマーク2018年3月23日
筆者の勤務する大学の入口にある植え込みの横に、「水準点」がある。その隣のプレートには、建設省国土地理院により、「この標石は、建設省国土地理院より教材として受けたものである」という文言とともに、「標高T.P.126.049m」と記されている。ここでT.P.とは、日本水準原点、つまり東京湾平均海面(Tokyo Peil:T.P.)からの高さを示している。測量を学ぶ人間には当たり前の知識であろうが、筆者を含む多くの分野外の人間には、余り馴染みがないかもしれない。
(写真)2018年3月20日、宮城大学構内にて筆者撮影。
大学のキャンパスのある場所は「仙台市太白区旗立」という。「太白区」という地名からもわかるとおり、太白山という山の麓になる。太白山の標高は321m、仙台市のほとんどの地域からおにぎりのような形を目にすることができる。規模は異なるが、小さな富士山のような形とも言え、大昔からご神体が宿る依り代を擁した地域として神体山、あるいは神奈備(かんなび・かむなび)とされてきたようで多くの仙台市民に愛されている。
筆者も年に一度は登るようにしているが、今年はまだその機会がない。体調の良い時であれば、研究室から頂上までの往復は早歩きで90分、少しゆっくりしても2時間あれば手軽に登山の楽しみを味わえる。途中には生出森八幡神社、山頂には貴船神社がある。
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「旗立」の話に戻ると、日本史で有名な坂上田村麻呂が、平安時代初期に奥州を平定した際、本人あるいはその一団が陣地を置いたところ、つまり旗を立てたことが「旗立」の由来というのが、筆者が現在の大学に赴任した際に、当時ある教授から聞いた話である。歴史書や文献を確認していないため真偽のほどはわからないが、それなりに真実味がある話として受け取り味わっている。時間があれば確認してみたい。
ちなみに、仙台に公的機関としての植物試験場が初めて設置されたのが1875年である。これが何度かの変遷を経て、1952年に宮城県農業短期大学(宮農短、農短)となり、1972年に市内の長町から現在の旗立に移転した。2005年4月1日に現在の宮城大学食産業学部が農短を引き継ぐ形で設置されたことに伴い、農短は2006年3月31日で閉学するが、その卒業生は宮城県下のみならず東北一円で農業に関わる多くの業績を残し、現在も第一線で活躍中である。筆者がフィールドに出て話をすると、雑談をしているうちに「実は...」となり、農短の卒業生に出会うことが多い。その施設と用地はそのまま現在の筆者の勤務先である宮城大学太白キャンパスとなっている。
歴史を振り返ると、冒頭で述べた「水準点」が設置されたのは、まさに農短が旗立に移ってきた年(1972年)であることがわかる。
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さて、「水準点」のことを英語で何と言うか。答えは、ベンチマーク(benchmark)である。手元の英英辞典を引くと、「a level of quality that can be used as a standard when comparing other things」と説明されている。これは「他と比べた際に基準として使用される質の水準」とでも訳すことができる。
経営学の世界では、ある時期「ベンチマーク」という言葉が頻繁に使用された。その場合は、同じこと実施している他企業の中で、最も良い実践(ベスト・プラクティス)をしている企業の経営手法や実践方法を「ベンチマーク」、つまり「基準点」として、自社の課題を解決していく際に、この言葉か使われ、こうした形で課題解決をしていく経営改善の手法は「ベンチマーキング」と言われている。
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仙台に来て13年目の春を迎えつつある筆者にとってのベンチマークは、毎日、出退勤の時にチラリと見るリアルな「水準点」である。
いにしえの坂上田村麻呂は、征夷大将軍としてこの地に来た時、そして、もしこの同じ場所に陣を敷いていたなら何を基準として見ていたか。華やかな都の生活か、それとも豊かな自然と山の幸、海の幸に恵まれた東北の生活か。あるいは、かつての農業短大の卒業生達が習得した技術や知見と比べ、我々の現在の教育の成果は、この「水準点」を上回るレベルであるかどうか。毎日いろいろな事を思いながら「水準点」を見る。
そして、今の自分自身のベンチマークを無意識のうちに引き下げていないかどうか...。花粉症の時期になるとどういう訳か毎年、同じことを考える。
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