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【熊野孝文・米マーケット情報】コメ王国を目指す新潟市の市単独コメ助成2018年5月8日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

コメの産出額(単位:千万円)

 平成30年度の新潟市の農業関連予算を見るとコメ関連予算として市単独で加工用米、米粉用米、醸造用玄米に助成金が支給されることになっている。
 具体的な内容は、助成対象者は「個人・農地所有適格法人・集落営農組織(認定農業者又は新規就農者)」で、助成額は加工用米が10a当たり7000円以内、米粉用米が同1万600円以内、酒造用玄米が同5000円以内。助成要件として「水田活用の直接支払交付金の対象水田であること」などの以外に「取組計画の相手先が新潟県内に本社があり、かつ新潟市内に本社または支社、営業所があること」が条件になっている。
 農水省がまとめた平成28年の市町村別コメ産出額によると、新潟市は330億円で全国1位である。第2位の長岡市の約2倍でダントツの1位の産出額を誇る。水田面積は2万8500haもあり、この面積は福岡県一県の水田面積よりも広い。特質すべきはコメの生産だけでなく、それを使用する実需者が多いことで、佐藤食品や亀田製菓など日本を代表するコメ加工食品メーカーが新潟市に本社を置いており、その売上額は2310億円にもなる。
 農業特区になった新潟市は、規制緩和で参入したローソンや新潟麦酒、JRなど9つのプロジェクトがあり、コメ作りではローソンが将来300haに拡大するほかJRは酒米づくり、クボタは輸出用米に取り組んでいる。また、農家レストランをオープンするところもあり、宿泊施設も備え、グリーンツーリズムもできるようになっている。プロジェクトの中には電通やぐるなびと包括提携、新しいゲノム技術で好みの枝豆を作るといった最先端技術の導入や5か国語に翻訳、外国人にも利用できるシステムの運用を始めるほかパナソニックが植物工場を、NTTがITCを使った水田管理を手掛けるなど様々な分野で活動が始まっている。ユニークなのはNPO法人ピースキッチンと計画が進んでいる「レストランバス」で、これはバスの中にキッチンが備えられ、農家を訪問、そこの食材を調理してバス内で食事でき、観光も楽しめるというもの。
 将来像として農業を核とした地方創生を掲げ、6次産業化の取り組みに加え、新潟市が有する広大な農地、恵み豊かな里山などの自然環境を活用「福祉」や「教育」などにも活かすという12次産業化を推進するという構想も描いている。また、新潟港から輸出されるコメも多いことからコメ産業活性化のために輸出も視野に入れている。
 イタリアの農林水産業の産出額は368億ドルで、日本の520億ドルより少ない。ところが農産物・食品の輸出額をみると433億ドルで産出額よりも多い。主な輸出品はワイン、チーズ、パスタ、オリーブオイルなどすべて加工食品である。農畜産物を原料として輸出するのではなく加工して輸出することによって外貨を稼いでいる。日本のコメ加工食品の輸出額は29年度で清酒が187億円、米菓が42億円で、清酒の伸びが著しいと言っても合計で230億円、ドル換算では2億ドル程度に過ぎない。
 公益財団法人食の新潟国際賞財団が設置した新潟市農業将来ビジョン研究会が新潟市長に提出した「政策提言書」に農業と食品産業の有機的連携による高付加価値産業化という項目が入っている。この提言書には新潟市が「コメ王国」にふさわしい実力発揮と競争力を持った産地の創生を謳っており、こうした提言書が冒頭のコメに対して新潟市がコメに単独予算を計上したことに繋がっているのかもしれない。さらに追い風になっているのが、輸出用米について新規需要開拓米の括りの中で取り組めば直接支払い交付金10a当たり2万円以外に産地交付金は単価に上限を設けないというある意味破天荒な助成措置が農水省から打ち出されたことで、産地と輸出業者の契約書さえあれば助成金の上乗せが可能になった。
 ただし、この助成金は輸出用米を作った生産者に支給されるものであり、コメを原料に清酒や米菓を作ってもそれらに助成されるわけではない。こうしたコメ加工食品に対する農水省の輸出助成策はあくまでも輸出国でのプロモーション費用に限られている。全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会の検討会議では米菓業界からプロモーション費用だけでなくせめて現地スーパーでの売り棚代を助成して欲しいという要望がなされているが、これは認められていない。
 であればコメ王国を目指す新潟市は生産者だけでなく、新潟市に所在するコメ加工食品メーカーに対して独自に輸出支援策を講じたらどうであろう。付加価値を付けた加工品をもっと海外で販売拡大できる措置を講じた方がコメ王国の実現は早いかもしれない。

 

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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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