【小松泰信・地方の眼力】鶴の一声にカクセイせよ2018年5月9日
4月22日、JR長崎駅前高架広場に上がると、高校生が署名活動をしていた。受け取ったビラには「核兵器の廃絶と平和な世界の実現をめざす高校生1万人署名にご協力ください」と書かれていた。喜んで署名とカンパ。「高校生平和大使にノーベル平和賞を」と書かれたシールには、彼ら彼女らの合言葉“ビリョクだけどムリョクじゃない!”を翼に乗せた平和の折り鶴。
◆ライバルはトランプ?!
鶴のおかげか、その高校生平和大使が正式に今年のノーベル平和賞候補となった(東京新聞、5月4日)。高校生平和大使の支援者らが国会議員の推薦状を取りまとめてノーベル賞委員会へ送付。4月に同委員会から派遣委員会にその旨の通知があった、とのこと。候補の段階ではあるが、これまでの活動が認められたことは慶賀に堪えない。
ところが強力なライバルあらわる。トランプ米大統領がミシガン州で演説した際、支持者が「ノーベル、ノーベル」と連呼し、ノーベル平和賞を受賞することへの期待感を表したことは、多くのメディアが伝えるところ。共和党の下院議員ら計18人が2日、朝鮮戦争終結や朝鮮半島の非核化を目指して尽力している氏を平和賞候補として、ノルウェー・ノーベル賞委員会に推薦状を送った(毎日新聞、5月4日)。朝鮮半島に平和が訪れることにケチをつける気は毛頭無いが、ホットなところで言えば、"イラン核合意離脱"やこれまでのアメリカンファーストに基づく数々の言動から、氏にノーベル平和賞とは早計では。
微力であることを自覚したうえで立ちあがった、未来を託したくなるこの若者たちにこそ、ノーベル平和賞を。
◆苦境に立つ若手研究者
若者といえば、研究に携わる若手研究者の苦しい状況を日本経済新聞(5月6日)が伝えている。同紙が行った20から40代の研究者に対するアンケート調査(未来技術推進協会と日本ロボット学会の協力を得て、3月23日から4月19日にインターネットを通じて実施。141人が回答)は、研究現場から活力が失われつつあることを明らかにしている。
「日本の科学技術の競争力は低下したと思いますか」について、「低下した」(38.3%)、「どちらかというと低下した」(39.7%)。78.0%が"低下"傾向を認めている。他方、"上昇"傾向を認める割合は、わずか3.5%である。
研究環境の整備対象は資金と時間。2016年度の科学技術研究費は約18兆4000億円。金額そのものは米中に次ぐ世界3位だが、2年連続で減少し、当面大きな伸びは見込めないとのこと。
競争力低下の原因(複数回答)を問うと、「大学の研究時間が減った」(46.1%)が最も多く、時間不足は明らか。教育や学内運営も担う大学教員が研究活動に振り向ける時間は年々少なくなっている。直近のデータとして、13年は02年に比べて10%減、特に若手研究者が多くを占める助教では15%減であることを紹介している。わが身わが周辺を顧みれば、それ以上の負担感あり。
資金と時間が枯渇する若手研究者に追い打ちをかけているのが、任期(5年)付き採用。競争原理による研究環境の活性化を狙って導入されたが、落ち着いて研究できない環境づくりへの多大なる貢献。加えて、精気の失せた姿をさらす教授の姿を見れば、研究の道を志す者は減る。志したとしても、長期的展望に立ったスケールの大きなテーマは成果が出にくく、当然小粒なテーマで論文数を稼ぐこととなる。悲しいかな、解決の糸口を求める課題が山積するわれわれの研究領域も例外ではない。
◆問題山積、国会議員に求められる姿勢
日本農業新聞(5月1日から4日)は、"終盤国会の焦点"として重要法案の論点を整理している。
市場法改正案(1日)の場合、事業者の創意工夫を後押しし、市場取引の活性化につなげるとは政府の説明。他方、必ずしも自治体が開設する必要性もなくなるため、「財政の苦しい自治体が、市場運営から撤退する事態を招きかねない」とは産地関係者の懸念。
同紙(8日)は、青果物を扱う中央卸売市場を開設する37都府県・市に対するアンケート結果を紹介している。調査は4月中・下旬に実施。回答自治体は31。以下の( )内は自治体数。
「今後の中央卸売市場の整備や運営についての携わり方」については、「これまでと変わらず、自治体が主導して整備や運営に携わる」(16)、「無回答など」(13)、「整備や運営に関し、一部外部化を検討している」(2)、「市場の民営化を検討している」(0)。
「将来的な市場の統廃合や縮小の検討」については、「検討していない」(20)、「無回答など」(11)、なお市場数の縮小や統廃合などについての選択肢はすべてゼロである。
「今回の卸売市場改革に合わせて、業務規定を中長期的に変更しますか」については、「変更する」(19)、「分からない」(12)、「変更しない」(0)である。
確かにこれだけ見れば、「現場は卸売市場の公設が欠かせないと認識している...」とする藤島廣二氏(東京聖栄大学客員教授)のコメントは当然である。しかし、この段階で、待ってましたとばかりに市場と距離を置こうとする自治体はないはず。市場法改正反対派にとっては、「無回答など」や「分からない」とする回答の多さこそ要注意である。市場民営化の流れが見えれば大きく動く可能性あり。そもそも、その時のための準備としての法整備と位置づけるべきだろう。
だとすれば、生煮えの審議で、どさくさ紛れの成立は断固阻止すべきである。同紙が取り上げた、その他の重要法案、TPP11承認案と関連法案(2日)、種子法復活法案(3日)、外国人労働者(4日)、についても熟議は不可欠。特に、TPPについては絶対阻止、種子法復活法案に関しては絶対成立の姿勢が求められる。
ところでその姿勢は誰に求めるべきであるか。もちろん国会議員各位。なかでも、全国農政連からご推薦を賜った方々ですヨ。
◆何党なのか名乗るべし
憲法記念日の日本農業新聞には不思議な記事が載っていた。一面にはその全国農政連が、5月21日から6月5日の間、来夏の参院選比例代表の推薦候補者を決める予備選挙を行うというものである。ご丁寧に、投票資格者には候補者3名の所信表明映像を収録したDVDを送付するそうである。二面には彼らの所信表明が写真付きで載っている。しかしどこを探しても大切なことが記されていない。何よりも大切なこと。そう、何党からお出になるおつもりか、ということである。
ひょっとすると、人物本位。何党であるかは問わない、ということであれば、創造的自己改革の最大の成果として評価すべきかもしれない。
だとしても、投票に際しては極めて重要な情報である。
"アウンの呼吸"で分かるでしょ、で済ますおつもりなら、現場とは"アワンの呼吸"も甚だしい。
名乗ることもはばかられるデタラメな政党だとすれば、"ビリョクのくせにチリョクもない!"と、鶴の一声。
「地方の眼力」なめんなよ
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