(083)モジュール化と「農業」の生き残り2018年5月25日
「あらゆる製品はモジュール化する」、これは製造業の世界ではよく知られている。モジュールとは組立単位であり、複雑な製品の組立てもいくつかの単位、つまりモジュールに分割される。そして、最終的にはモジュールごとに最も競争力があるところが生き残り、最終製品はそれらの組み合わせとなる。また、モジュールの組み替えにより、核となる部分は同じでも、外見や機能が異なる最終製品を提供可能になる…というものである。
この考え方を農業に当てはめるとどうなるか。土づくり、播種の準備、施肥、栽培、防除、収穫、包装、保管、輸送、など、品目や地域により異なるが、いくつかの共通プロセスに分かれることは一目瞭然である。例えば、個々の農家は収穫作業を行わず、収穫専門業者に委託することなどが考えられる。実際、アルゼンチンの穀物農家の多くは収穫作業を行わず外注するという。
畜産ではどうか。繁殖、育成、肥育...という形ですでに個別分野が確立しているが、各々の分野をモジュールと呼び直せばこれも同じである。
現実に、自動車産業の場合には、国ごとに特定部品の生産に特化するという形が行われている。A国ではタイヤ、B国ではエンジン、C国ではボディー...、それをD国で完成品に仕立てて輸出する。同じ考え方を農業にあてはめれば、かつて一世を風靡した農業の国際分業論になる。
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さて、現代の日本農業でモジュール化はどの程度進展しているのかと言われれば、全く進展していないところと、ほぼ完全にモジュール化されているところが併存(共存ではない)しているのかもしれない。
個人の小規模農家で全ての農作業を実施している場合、その農家内で作業のいくつかがモジュール化されてはいても、最終的にはモジュール化は農家単位と考えられる。
一方、特定の作物や畜産物等を大規模な工場や生産者のネットワークにより大量に生産・加工・流通させている場合、個々の農家はあくまでも全体の一部を「オペレータ」として担っているに過ぎないと考えることができる。
当たり前のことだが、協同組合はその原則からして独立した個々の農家の集合体であるが、同じ集合体でも企業組織の一部となる場合や、畜産のインテグレーションのような場合、個人は全体最適を追求する中の特定の一部分を担当する「オペレータ」となる。牛の世話や畑の草取りという「行動」は同じでも、位置づけと役割が異なることになる。
※ ※ ※
では、農業の各部分あるいは各過程を徹底的に共通要素でくくり出し、それを最も競争力ある仕組みで代替させることを追求した場合、農業として最後に残るものは何か? あるいは何を最終的に農業というかというようなことを最近は頭の体操として通勤途中に何度も考える。だから私は車を運転しない。
人工知能(AI)が発展し、土壌分析や施肥、定植、防除、収穫、梱包、輸送...これら全てが無人化・自動化し、ディスプレイ上で全ての操作が可能になったとき、日本に農業は残るのだろうか。この方向だけで突き進むと究極の形として食料生産地と食料生産業、それに従事する作業員としてのオペレータは残っても農業も農家も消滅してしまうのではないかという単純な疑問が常につきまとう。
現実的には、この流れは長い時間をかけて個別の現場で試行錯誤を繰り返しながら、つまり行きつ戻りつしながら進むのかもしれない。個別地域や組織の特性や歴史・経過を無視して自分がより普遍的な仕組に取り込まれることに対し、全ての人や組織が無条件に迎合する訳ではないだろう。仮に考え方は一般論として理解はしても心理的・情緒的な抵抗が大きいだけでなく、現実的、社会的にも検討すべき多くの関連課題がある。
※ ※ ※
ある一方向に極端に偏る考え方が、簡潔で最も効率性と生産性を高めるとはわかっていても、それに懐疑的になる本当の理由は、おそらくその結論を導き出す考え方の途中にあるあまりにも多くの仮定が全てうまくいった場合のことばかりを前提としているということを、人は直観的に理解するからだ。歴史の教訓を出すまでもない。
農業ではなく全てを食料産業にすれば良いという考え方に一定の理解はしつつも、それで本当に今後は大丈夫なのかという不安が消えない理由もそこにある。国家であれ、組織であれ、そして個人レベルでも、将来の方向性を定める場合には、わかりやすい一方向だけに絞るのではなく、少しは「幅」を持たせておく、それこそが予期せぬ環境変化に対して生き残るために必要な実践的な知恵であると思う。
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